別記事「DX人材が育たない中小企業の共通点」では、社内独自の資格制度でスキルを可視化した企業の事例を紹介しました。この記事では、独自制度に頼らなくても活用できる公的な「資格」と、社内のスキルを見える化する「スキルマップ」の作り方について解説します。

まず知っておきたい「デジタルスキル標準」

経済産業省とIPA(情報処理推進機構)は2022年12月、企業や個人がDX推進に必要なスキルを整理するための「デジタルスキル標準(DSS)」を策定しました。2026年4月にはver.2.0が公表されています。この標準は大きく2つで構成されています。

  • DXリテラシー標準(DSS-L):経営層から現場スタッフまで、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力を整理したものです。「Why(DXの背景・必要性)」「What(データ・技術の基礎知識)」「How(利活用の方法)」「マインド・スタンス」の4要素で構成されており、全社員が共通の土台として学ぶことを想定しています
  • DX推進スキル標準(DSS-P):DXを実際に推進する人材の役割ごとに必要なスキルを整理したものです。「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「データマネジメント」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」という6つの人材類型を定義し、それぞれが連携(協働)することを重視しています

中小企業の従業員が取得しやすい資格

デジタルスキル標準では、DXリテラシー標準の習得に「特に有用」な資格としてITパスポート試験、「有用」な資格として情報セキュリティマネジメント試験を挙げています。これらを軸に、中小企業でも取得しやすい代表的な資格を紹介します。

  • ITパスポート試験:IPAが主催する国家試験で、ITの基礎知識を幅広く問う入門レベルの試験です。受験料は7,500円(税込)で、合格率はおおむね50%前後。専門職に限らず、全社員が最初に受けるDX関連資格として位置づけやすい試験です
  • 情報セキュリティマネジメント試験:同じくIPA主催の国家試験で、情報セキュリティの管理・運用に関する基礎知識を問います。前述の「情報セキュリティ対策」の実務にも直結する内容です
  • G検定:日本ディープラーニング協会(JDLA)が主催する民間資格で、AI・ディープラーニングの基礎知識を問います。受験料は一般13,200円、学生5,500円(税込)です
  • DXイノベーション検定(DXi検定、旧称:DX検定):2026年2月に名称が変更された民間資格で、デジタルスキル標準に準拠した内容を扱います。受験料は6,600円(税込)で、Web形式60分・100問の試験です
  • 情報処理技術者試験の高度区分:ITストラテジスト、システムアーキテクトなど8区分からなる国家資格で、DX推進スキル標準の各ロールに対応する、より専門性の高い上位資格として位置づけられます

全員が高度区分を目指す必要はありません。まずはITパスポート試験のような入門資格を全社共通の土台とし、役割に応じて専門性の高い資格へ進むという段階的な考え方が現実的です。こうした資格取得・研修の費用負担を軽減する制度については、別記事「人材開発支援助成金とリスキリング補助金の違いとは?中小企業が使える人材育成支援まとめ」で解説しています。

スキルマップとは何か、作り方

スキルマップとは、社内の誰が、どのスキルを、どの程度習得しているかを一覧化した表のことです。経産省・IPAの「DX推進指標」は人材育成・確保の状況を評価する項目を含んでいますが、「スキルマップ」という言葉自体が公式に明記されているわけではありません。実務上は、前述のDX推進スキル標準(DSS-P)が定める6つの人材類型を軸に、各分野のスキルを5段階程度で自己評価する形で整理する方法が、民間の解説記事等で紹介されています。

中小企業の場合、最初から精緻なスキルマップを作り込む必要はありません。まずは「誰が」「どの業務ツールを」「どの程度使いこなせるか」を簡単な一覧表にまとめるだけでも、次に誰へ何を任せ、誰にどんな研修が必要かを判断しやすくなります。

簡易スキルマップの作成例

難しく考えず、次のようなシンプルな表から始めることをおすすめします。縦に社員名、横に自社で重要なスキル項目を並べ、それぞれ1(未経験)〜5(人に教えられるレベル)程度の5段階で自己評価してもらう形です。

氏名 基本的なPC操作 使用中のSaaS操作 データ集計・分析 簡単なアプリ作成(ノーコード等)
Aさん 5 4 2 1
Bさん 3 3 4 3
Cさん 4 2 1 1

この例では、Bさんがデータ分析やノーコードツールの操作に比較的強いことが一目で分かります。こうした一覧があれば、新しい取り組みを任せる際に「誰に相談すればよいか」がすぐに分かり、逆に手薄な項目が見えれば、そこを次の育成・採用の重点にする、といった判断がしやすくなります。

中小企業のDX人材不足の実態

東京商工会議所が2025年1月に公表した調査によると、デジタル人材を「十分確保できている」と回答した企業はわずか7.2%、「ある程度確保できている」を合わせても37.3%にとどまり、6割超の企業が人材確保に課題を感じています。IPA「DX動向2025」でも、日本企業の85.1%がDX推進人材の不足を訴えており、これは米国・ドイツと比べても高い水準です。人材不足は依然として深刻ですが、だからこそ、限られた人材のスキルを可視化し、計画的に育成する重要性が増しているといえます。

資格取得・スキルマップ整備の進め方3ステップ

  1. 入門資格を全社的な共通言語にする:ITパスポート試験のような基礎的な資格を、部署を問わず全社員が学ぶ共通の土台として位置づける
  2. 簡易なスキルマップで現状を可視化する:厳密な標準に縛られすぎず、まずは「誰が何をできるか」を一覧化するところから始める
  3. 役割に応じて次の学びを検討する:DX推進スキル標準の6つの人材類型を参考に、社員それぞれの適性に応じた専門資格・研修を検討する

よくある質問

Q. 資格を取得すれば、DXが自動的に進むようになりますか?

資格取得はあくまで知識の土台づくりであり、それだけでDXが進むわけではありません。別記事「DX人材が育たない中小企業の共通点」で紹介したように、学んだ知識を実際の業務改善に活かす機会とセットで用意することが重要です。

Q. 中小企業でも全員にITパスポートを取得させるべきですか?

必須にする必要はありませんが、DXの基礎知識を社内で共有する目的であれば、希望者から段階的に取得を進める、あるいは資格取得を支援する制度を設けるといった形が現実的です。

Q. スキルマップは誰が作成・管理すべきですか?

専任の人事担当者がいなくても、DX推進の責任者や各部署の推進役が中心になって作成・更新する形で問題ありません。重要なのは一度作って終わりにせず、定期的に見直すことです。

Q. 自己評価だけだと、実態と食い違いませんか?

自己評価には多少の主観が入りますが、まずは大まかな傾向を把握することが目的なので、厳密さにこだわりすぎる必要はありません。運用を続ける中で、実際に業務を任せてみた結果と自己評価にずれがあれば、その都度スキルマップを更新していけば十分です。

参考にした主な調査・資料

まとめ

デジタルスキル標準を軸に、ITパスポート試験のような入門資格から着手し、簡易なスキルマップで社内の状況を可視化することで、限られた人材を計画的に育成しやすくなります。厳密な制度を作り込むことよりも、まず「誰が何をできるか」を把握することから始めてみてください。