内製化と外注の違い|日本企業が競争領域まで外注している実態
システム開発をベンダーに任せていると、こんな不満が出てきます。
- 見積もりが高く、少しの修正にも費用と時間がかかる
- 依頼したものとできあがったものが違う
- 仕様を理解している人が社内に誰もいない
- ベンダーを変えたくても乗り換えられない
そこで「内製化」という言葉が出てきます。しかし現実には、こう返ってくることが多いはずです。
そんな人材、うちにはいない。
この議論は「内製か外注か」の二択で語られがちですが、それが行き詰まりの原因です。IPAが日本・米国・ドイツを比較した調査を見ると、日本の問題は割合ではなく「どこを外注しているか」にあることが見えてきます。
内製化と外注の違い
まず両者の性質を整理します。
| 内製化 | 外注 | |
|---|---|---|
| 費用の性質 | 人件費(固定的) | 委託費(案件ごと) |
| 小さな修正 | すぐ対応できる | 都度の見積もり・発注 |
| ノウハウ | 社内に残る | ベンダー側に残る |
| 立ち上がり | 遅い(採用・育成が必要) | 速い |
| 専門性 | 自社の範囲に限られる | 幅広く調達できる |
| 属人化リスク | 高い(担当者が辞めると詰む) | 低い |
どちらが優れているという話ではありません。変更の頻度が高く、自社の競争力に直結する部分ほど内製が向く——これが基本的な考え方です。
【データ】日本は競争領域まで外注している
IPA「DX動向2025」は、日本1,535社・米国509社・ドイツ537社を対象に、開発の進め方を比較しています。
注目すべきは、「コア事業/競争領域」と「ノンコア事業/非競争領域」を分けて聞いている点です。
日本は「コア事業/競争領域」において「外部委託による開発」を行っている回答率が一番多い一方、米国では「内製による自社開発」が半数程度、ドイツは3つの手段がそれぞれ同程度の割合になっている
競争領域、つまり自社の強みそのものを、日本企業は外部に委託しているという結果です。
一方、ノンコア領域はこうなっています。
「ノンコア事業/非競争領域」では、日本は「パッケージソフトウェアの導入」「SaaSの導入」が高く、「内製による自社開発」と「外部委託による開発」の回答率は低い
ノンコア領域を出来合いのサービスで済ませる判断は合理的です。問題はその手前にあります。
差別化しなくてよい部分は正しく外に出し、差別化すべき部分まで外に出している。
「内製化済み」は日本が米独の半分以下
内製化の進み具合そのものも調査されています。
「内製化を進めている」の回答割合は米国が最も高く、日本とドイツは同程度である。「必要な部分は内製化済みなので、現在は進めていない」については米国とドイツが同程度となっている一方で、日本は16.7%で半分以下である
「進めている」の割合は日本とドイツで大差ありません。差が出るのは「もう必要な分は終わった」という回答です。日本は米独の半分以下にとどまります。
さらに報告書は、日本について次のように述べています。
「外部開発を今後も利用予定であり、内製化は進めていない」の回答割合は日本が高く、依然として外部開発を利用する企業も多い傾向がうかがえる
規模が小さいほど内製化していない
中小企業にとって重要なのはこの部分です。
米国は従業員規模を問わず内製化が進んでおり、「内製化を進めている」「必要な部分は内製化済」を合わせると8割以上となっている。日本とドイツは従業員規模が小さくなるにつれその割合が小さくなるが、その傾向は日本の方が大きい
米国では会社の規模と内製化率が関係しません。一方、日本は小さい企業ほど内製化していない、しかもその落ち込み方がドイツより急です。
また、DXの取り組み状況で分けた集計もあります。
各国とも「DXに取組んでいる」企業の方が内製化を進めている傾向にある。米国は「DXに取組んでいる」企業の9割近くが内製化を進めているか、内製化済みとなっている
DXの推進と内製化には相関があります。ただし因果は断定できません。内製化したからDXが進むのか、DXを進める企業が内製化に向かうのか、この調査からは判断できない点には注意が必要です。
最大の壁は、やはり人材
内製化を進めるうえでの課題も聞かれています。
日本では「人材の確保や育成が難しい」との回答率が突出しており、人材不足により内製化が進まないケースが非常に多いと考えられる
これは実感と一致するはずです。数字でも裏づけられています。
| 国 | DX推進人材の状況 |
|---|---|
| 日本 | 「やや不足」「大幅に不足」が85.1% |
| 米国 | 「やや過剰」「過不足はない」が73.6% |
| ドイツ | 同 52.5% |
日本の85.1%が不足している一方、米国は7割以上が「足りている」と答えています。
米独とは「困っていること」が違う
興味深いのは、米国とドイツの課題が日本と異なる点です。
米国とドイツは「外部開発したシステムの内製化への移行が難しい」と回答する割合が日本より高い
米独は「すでにあるものをどう自社に移すか」で悩んでいます。日本は「そもそも人がいない」段階です。同じ内製化という言葉でも、立っている位置が違います。
AI活用にも同じ構図が現れている
同じ調査は、AI関連人材についても各国を比較しています。ここにも似た傾向が出ています。
日本は「先端的なAIアルゴリズムを開発したり、学術論文を書けたりするAI研究者」「AIを活用したソフトウェアやシステムを実装できるAI開発者」といった研究・技術領域の人材は「自社には必要ない」の回答割合がそれぞれ56.4%、40.7%で米国とドイツとの差が大きい
報告書は、この結果をこう解釈しています。
日本はAIを自社で開発して使うものではなく、事業企画や業務適用、AI導入、データ分析等に活用していく傾向にある
AIを「作る」のではなく「使う」という姿勢です。中小企業にとって、この判断自体は合理的でしょう。自社でAIモデルを開発する必要がある会社はごく一部です。
ただし注意すべき点があります。作らないと決めた場合、必要になるのは「どれを選び、自社の業務にどう当てはめるか」を判断する力です。これも社内に持つべき能力であり、外部に丸ごと委ねられるものではありません。
作らない選択をするほど、「選ぶ力」「つなぐ力」が社内に要る。
中小企業の現実解
ここまでのデータを踏まえると、中小企業が取るべき方針は「全面内製化」ではありません。
① 領域を分けて考える
| 領域 | 判断 | 例 |
|---|---|---|
| 競争領域 (自社の強み) |
できる限り自社で握る | 独自の見積ロジック、顧客対応の仕組み、現場固有の管理方法 |
| 非競争領域 (どこも同じ) |
SaaS・パッケージ | 会計、勤怠、給与、経費精算 |
会計処理の方法で差別化する会社はありません。そこはSaaSに任せ、浮いた労力を競争領域に向けるのが筋です。
② 「作る」より「握る」と考える
内製化はプログラムを書くことだけを指すのではありません。中小企業にとって現実的なのは次の段階です。
- 仕様を自社で書ける——何が必要かを言語化できる
- データの構造を理解している——どこに何が入っているか分かる
- 簡単な変更は自社でできる——ノーコード・ローコードの活用
- 本格的な開発を自社で行う
1と2だけでも状況は大きく変わります。ベンダーの見積もりが妥当か判断できるようになるからです。全部を自社で作らなくても、主導権は取り戻せます。
③ 丸投げのリスクを直視する
外注そのものは悪ではありませんが、丸投げは危険です。仕様を理解しないまま任せた結果、大規模な訴訟に発展した事例もあります(基幹システム刷新の失敗パターン)。
ベンダーとの関係で重要なのは、要件を自社の言葉で説明できるかどうかです。これは人材育成の問題でもあります(DX人材が育たない共通点)。
よくある質問
Q. 一人情シスでも内製化はできますか?
本格的な開発は困難です。ただし前述の「仕様を書ける」「データを理解する」段階なら可能です。まずSaaSやノーコードで小さく始め、ベンダーへの依存度を下げるところから着手してください。
Q. 内製化するとコストは下がりますか?
短期的にはむしろ上がることが多いです。採用・育成の費用が先に発生するためです。効果が出るのは変更が頻繁に発生する領域で、都度の外注費がかからなくなる分が積み上がってからになります。
Q. 既存の外注システムを内製に移せますか?
難易度は高くなります。米国・ドイツでも「外部開発したシステムの内製化への移行が難しい」が課題に挙がっています。新規の仕組みから内製で始めるほうが現実的です。
Q. 人を採用できない場合はどうすればよいですか?
採用にこだわらず、既存社員の育成を検討してください。業務を理解している社員がツールを扱えるようになるほうが、外部から来た技術者が業務を覚えるより早い場合があります。
Q. どこまでを競争領域と考えればよいですか?
「この進め方が他社と違うから選ばれている」と説明できる業務が競争領域です。説明できないなら、そこは非競争領域として標準的なツールに寄せてよい部分です。
参考にした主な調査・資料
- DX動向2025(IPA 独立行政法人情報処理推進機構)— 日米独比較調査の概要
- DX動向2025 本編(IPA)— ソーシング手段の国別比較、内製化の状況(日本16.7%)、内製化の課題、DX推進人材の過不足(85.1%)
- DX動向2025 データ集(IPA)— 従業員規模別・DX取組状況別の内製化データ
まとめ
内製化は「するかしないか」ではなく「どこをするか」の問題です。
- 日本はコア事業/競争領域で外部委託が最多。米国は内製が半数程度
- ノンコア領域はパッケージ・SaaSで済ませており、この判断自体は合理的
- 「内製化済み」は日本16.7%で米独の半分以下
- 米国は規模を問わず8割以上。日本は小規模ほど内製化していない
- 日本の課題は人材の確保・育成が突出(DX人材不足85.1%/米国は73.6%が充足)
- 米独の課題は「既存システムの内製化への移行」。立っている段階が違う
- 中小企業は「作る」より「仕様を書ける・データを理解する」から始める
まず自社のどの業務が競争領域なのかを言葉にしてみてください。それが決まらないうちに内製化を進めても、力を入れる場所を間違えます。