人材開発支援助成金とリスキリング補助金の違いとは?中小企業が使える人材育成支援まとめ
別記事「DX推進に役立つ資格とスキルマップの作り方」では、DX人材に必要なスキルの整理方法を紹介しました。この記事では、そのスキル習得にかかる費用を支援する「人材開発支援助成金」(企業向け)と、リスキリングに関する個人向けの給付制度を整理し、両者の違いを解説します。
人材開発支援助成金とは:企業向けの助成金
人材開発支援助成金は、厚生労働省が実施する企業向けの助成金で、2026年度(令和8年度)時点では「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」の4コースで構成されています。このうち「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」は、令和4年度から8年度末までの時限措置である点に注意が必要です。制度は過去に何度か再編されており、古い名称(特定訓練コース等)で検索すると現行制度と異なる情報に行き当たることがあるため、参照する際は最新の一次資料を確認することをおすすめします。
DX人材育成で使いやすい3つのコース
数あるコースの中でも、DX・デジタル人材の育成に活用しやすいのは次の3つです。
| コース | 対象 | 経費助成率(中小企業) | 年度上限額 |
|---|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 10時間以上のOFF-JT訓練全般 | 45%(賃金・資格手当要件を満たすと60%) | 1,000万円 |
| 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練等) | ITSS・DX推進スキル標準レベル3・4等の高度な訓練、大学院での訓練 | 75% | 2,500万円(成長分野等人材訓練は別枠1,000万円) |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開・DX/GX化に伴う人材育成計画に基づく訓練 | 75% | 1億円 |
「事業展開等リスキリング支援コース」は上限額が1億円と非常に大きく、賃金助成(1時間あたり1,000円、資格手当要件を満たすと500円加算)に加え、中小企業限定で訓練に伴う設備投資費用の50%を加算できる仕組みもあります。ただし、このコースで「企業内の人事及び人材育成に関する計画」に基づく訓練を行う場合は、認定経営革新等支援機関による事前確認が必須である点に注意してください。
個人向けの「リスキリング」給付制度
企業向けの助成金とは別に、個人が直接活用できる制度もあります。
- 経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」:令和5年度に開始した事業で、経産省が選定した「補助事業者」(民間企業)を通じて、在職者にキャリア相談・リスキリング講座の受講・転職支援を提供する枠組みです。個人が直接申請して受給する補助金ではありません。六次公募は2025年9月16日正午で終了しており、七次公募のスケジュールは本記事執筆時点(2026年7月)では未定ですが、事業自体は令和8年度末(2027年3月)まで継続予定とされています。具体的な個人あたりの給付額は公式サイトに明記がなく、確認できていません
- 厚生労働省「教育訓練給付制度」:雇用保険の被保険者(在職者・離職者)を対象に、指定講座の受講費用の一部を給付する制度です。一般教育訓練給付金は給付率20%(上限10万円)、特定一般教育訓練給付金は40%(上限20万円、資格取得+就職で10万円加算)、専門実践教育訓練給付金は50%(年間上限40万円)で、資格取得+就職で70%(年間上限56万円)、賃金が5%以上上昇すればさらに80%(年間上限64万円、最大3年間)まで給付率が上がります
企業向け制度と個人向け制度の違いを整理する
ここまで紹介した制度を、申請主体別に整理すると次のようになります。
| 視点 | 人材開発支援助成金(企業向け) | 教育訓練給付制度(個人向け) |
|---|---|---|
| 申請主体 | 企業(事業主) | 従業員本人(雇用保険の被保険者) |
| 訓練費用の負担者 | 原則、事業主が全額負担 | 本人が受講料を負担し、事後に一部給付 |
| 訓練内容の主導権 | 会社の人材育成計画に基づき企業側が主導 | 本人が受講したい講座を自分で選択 |
| 向いている場面 | 会社として計画的にDX人材を育成したい場合 | 従業員個人の自己啓発・キャリアアップを後押ししたい場合 |
どちらか一方を選ぶというより、「会社主導で育成すべき人材」と「本人の意欲に任せたい学び直し」を切り分け、両方の制度を使い分けるという発想で検討すると、自社に合った活用方法が見えてきます。
企業向け・個人向けは併用できるか
「会社の助成金で研修費用を負担しつつ、従業員個人も教育訓練給付金を受け取れるか」という点は気になるところですが、一次資料では明確な併用可否の規定を確認できませんでした。ただし、人材開発支援助成金は「訓練経費を事業主が全額負担すること」が支給要件となっているため、従業員本人の自己負担が発生しない場合、教育訓練給付金の算定基礎となる「本人が支払った経費」自体が生じない、という制度上の帰結になると考えられます。また、厚労省のパンフレットには「同一の経費・賃金・訓練実施を対象として他の助成金や補助金等を申請する場合、どちらか一方しか支給されないことがある(併給調整)」という一般的な注意書きもあります。詳細は事前にハローワークに確認することをおすすめします。
申請の実務上の注意点
人材開発支援助成金を利用する際は、次の点に注意が必要です。
- 計画届の事前提出が必須:訓練開始日の6か月前から1か月前までに「職業訓練実施計画届」を提出する必要があります。訓練を始めてから慌てて申請することはできません
- 体制整備が前提:「職業能力開発推進者」の選任、「事業内職業能力開発計画」の策定・周知が支給要件になっています
- 電子申請にはGビズIDが必要:オンラインでの手続きを予定している場合は、事前にGビズIDを取得しておく必要があります
- 支給申請の期限:訓練終了日の翌日から2か月以内に支給申請を行う必要があります
中小企業がどちらを検討すべきか
自社の状況に応じて、次のように検討するとよいでしょう。
- 会社主導で計画的に研修を実施したい場合:人材開発支援助成金の活用が中心になります。特に高度なデジタル人材育成を目指すなら「人への投資促進コース」、DX・GXに伴う事業展開を見据えた人材育成なら「事業展開等リスキリング支援コース」が候補です
- 従業員個人のキャリアアップ意欲を後押ししたい場合:教育訓練給付制度の対象講座を従業員に案内し、自己啓発的な学び直しを支援する形も選択肢になります
- まず何から着手すべきか迷う場合:別記事「DX推進に役立つ資格とスキルマップの作り方」で紹介したスキルマップを先に作成し、不足しているスキル領域を明確にしてから、対応する制度を選ぶという順序がおすすめです
よくある質問
Q. 助成金の申請だけを社労士に依頼することはできますか?
可能です。計画届の作成や支給申請の手続きは煩雑なため、社会保険労務士に依頼する中小企業も少なくありません。ただし、依頼費用が助成額に対してどの程度の割合になるかは事前に確認しておくとよいでしょう。
Q. オンライン学習サービス(eラーニング)の受講費用も対象になりますか?
コースによって扱いが異なります。事業展開等リスキリング支援コースには「定額制訓練(サブスクリプション型研修)」を対象とするメニューもあり、経費助成率60%が適用されます。ただし対象となる訓練の要件は細かく定められているため、利用予定のサービスが対象に該当するか、事前に確認することが必要です。
Q. 助成金がもらえるまでどのくらいの期間がかかりますか?
計画届の提出から訓練実施、支給申請、審査を経て実際に助成金が振り込まれるまでには、数か月単位の期間を要するのが一般的です。研修費用は基本的に企業が一旦立て替える必要があるため、資金繰りを踏まえたスケジュールを組むことが重要です。
Q. 助成金を使わずに研修を実施した場合、後から遡って申請できますか?
できません。人材開発支援助成金は、訓練開始前に「職業訓練実施計画届」を提出していることが前提条件です。既に実施してしまった研修について、後から遡って申請することは認められていません。研修を計画する段階で、助成金の活用を検討しておく必要があります。
参考にした主な調査・資料
まとめ
人材開発支援助成金は企業が主体となって研修を実施する際の助成金、教育訓練給付制度は従業員個人が学び直しをする際の給付金という違いがあります。特にDX・デジタル人材の育成では、「人への投資促進コース」や「事業展開等リスキリング支援コース」の助成率が高く設定されており、活用のメリットが大きい制度です。まずは別記事「DX人材が育たない中小企業の共通点|内製化に成功する社内体制の作り方」もあわせてご覧いただき、自社に必要な人材育成の方向性を整理したうえで、制度の活用を検討することをおすすめします。