「DXを進めたいが、社内に詳しい人がいない」「担当者を決めても、他の業務と兼務でなかなか進まない」——中小企業のDX推進担当者からよく聞く悩みです。実際、多くの調査で「人材不足」はDX推進の最大の壁として挙げられ続けています。

この記事では、公的機関の調査データをもとに中小企業のDX人材不足の実態を確認したうえで、人材が育たない企業に共通する特徴と、社内での育成(内製化)に成功している企業の取り組みを紹介します。

中小企業のDX人材不足、実態はどうなっているか

IPA(情報処理推進機構)の「DX白書2023」によると、DX人材の「量」が「大幅に不足している」と回答した日本企業の割合は、2021年度の30.6%から2022年度には49.6%へと急増しました。「人材が充足している」と回答した企業は日本ではわずか10.9%で、米国の73.4%と比べて大きな差があります。

中小企業庁「中小企業白書2023」でも、「社内にIT人材がいる」と回答した企業は26%にとどまり、74%の企業が「いない」と回答しています。IT人材が不足している理由としては「採用できないから」が47.1%と最も多く、「国内のIT人材の絶対数が少ないから」(32.4%)が続きます。つまり、多くの中小企業にとって「人材は外部から採用して補う」という選択肢自体が現実的に難しいのが実情です。

一方で、中小企業基盤整備機構(中小機構)が2024年10〜11月に実施した「中小企業のDX推進に関する調査」(全国1,000社対象)では、DXの課題として「ITに関わる人材が足りない」(25.4%)「DX推進に関わる人材が足りない」(24.8%)と回答した企業の割合は、いずれも2023年調査(28.1%/27.2%)よりやや低下しています。人材不足は依然として大きな課題ですが、少しずつ改善に向かっている企業も増えてきているようです。

DX人材が育たない中小企業に共通する特徴

人材不足の実態データに加え、DX推進がうまく進まない中小企業では、次のような組織的な特徴がよく見られます。

特定の1人に丸投げしてしまう

「ITに詳しい」という理由だけで一人の担当者にDX推進を任せきりにし、その人の他業務との兼務負荷が高まって、結局進まなくなるケースです。属人化が進むと、その担当者が休職・異動・退職した瞬間にDX推進そのものが止まってしまうリスクも抱えます。さらに、周囲の社員が「あの人に任せておけばいい」という姿勢になり、組織全体としてのITリテラシーが一向に底上げされないという副作用も生まれます。

採用でしか解決しようとしない

社内での育成を検討せず、「専門人材を採用すれば解決する」と考えてしまい、採用難にぶつかって計画自体が止まってしまうケースです。DX人材は大企業も含めて獲得競争が激しく、給与水準や知名度で見劣りしがちな中小企業が即戦力人材を採用するのは簡単ではありません。採用を否定するわけではありませんが、「採用がうまくいくまでDXは進められない」という状態に陥ってしまうのは避けたいところです。

ツール導入がゴールになってしまう

新しいシステムを導入すること自体が目的化し、現場が使いこなせるようになるための教育・フォローに手が回らないケースです。導入直後は使われていても、フォローが途切れると徐々に利用が形骸化し、結局「宝の持ち腐れ」になってしまう企業は少なくありません。

これらに共通するのは、「DXを一部の人・一度の投資で終わらせようとしている」という点です。人材を社内で継続的に育てていく仕組みがないと、担当者の異動や退職をきっかけに振り出しに戻ってしまいます。

内製化に成功している企業の共通点

経済産業省が優良なDXの取り組みを行う中堅・中小企業を表彰する「DXセレクション」の事例からは、社内での人材育成(内製化)に成功しているヒントが見えてきます。

事例1:社内資格制度で「全員DX」を実現(建設業)

「DXセレクション2025」でグランプリを受賞した建設業の企業では、社内独自の認定資格制度を整備し、2024年時点で従業員の77%がアソシエイト級、34%がスペシャリスト級の資格を取得しています。ノーコードツールを活用して現場の社員自身が業務アプリを作成できるようにし、経理・勤怠システムまで内製化する「全員DX」を推進しています。この企業のポイントは、DXを「一部のIT担当者の仕事」ではなく「全社員が身につけるべきスキル」として位置づけ、資格取得を通じてスキルレベルを可視化した点にあります。可視化された資格が社内の共通言語になることで、誰がどのレベルまで習熟しているかが一目で分かり、次に育成すべき人材を特定しやすくなる効果も生まれます。

事例2:各部署にDX推進リーダーを配置(製造業関連)

別の受賞企業では、RPA導入をきっかけにAI-OCRとの連携で請求書処理・勤怠処理を自動化する一方、各部署に「DX推進リーダー」を配置し、特定の1人に負荷が集中しない体制で内製化を継続しています。部署ごとにリーダーを置くことで、それぞれの現場に近い立場からツールの改善提案が上がりやすくなり、全社一括導入では拾いきれない細かな業務課題にも対応できるようになります。

この2つの事例に共通するのは、「一部の担当者に丸投げしない」「スキルを可視化して社内に定着させる」「ノーコード・ローコードツールで小さな成功体験を積み重ねる」という3点です。

自社で内製化を進めるための3ステップ

  1. 属人化を避ける体制をつくる:DX推進を1人に任せず、各部署に最低1人「推進役」を置き、負荷を分散する
  2. スキルを見える化する:社内独自の簡易な認定基準やチェックリストを作り、「誰が何をできるか」を可視化する
  3. ノーコード・ローコードツールで小さく始める:専門知識がなくても扱えるツールで身近な業務を自動化し、現場が「自分たちでもできる」という成功体験を積む

この3ステップは、必ずしも一直線に進む必要はありません。例えば、まず1つの部署でノーコードツールによる小さな成功体験を作り、それを社内で共有したうえで、他部署にも推進役を置く体制づくりに広げていく、という順番でも構いません。重要なのは「小さく始めて、成功体験を社内に広げていく」というサイクルを止めないことです。

内製化を進める際に陥りやすい落とし穴

内製化を進めようとする過程では、次のような落とし穴にも注意が必要です。

  • 資格取得や研修受講が目的化してしまう:資格を取ること自体がゴールになり、実際の業務改善につながらないまま終わってしまうケース。資格取得後に「何を作るか・何を改善するか」という実践の機会をセットで用意することが重要です
  • キーパーソン1人に負荷が偏る:推進役を複数の部署に置いたつもりが、結局スキルの高い1人に相談が集中してしまうケース。定期的に情報共有の場を設け、キーパーソン同士やその他の社員にもノウハウが広がる仕組みを作ることが有効です
  • 評価制度が追いついていない:DX推進やスキル習得に取り組んでも人事評価に反映されないと、社員のモチベーションが続きにくくなります。資格取得や改善提案を評価に組み込むことも検討に値します

よくある質問

Q. DX人材の育成にはどれくらいの期間がかかりますか?

企業の規模や現状のITリテラシーによって差はありますが、ノーコードツールで簡単な業務アプリを作れるようになるまでであれば数週間〜数か月、社内資格制度のような仕組みが定着するまでには1年以上を見込んでおくのが現実的です。焦らず、小さな成功体験を積み重ねながら段階的に広げていく姿勢が大切です。

Q. 外部研修と社内育成、どちらを優先すべきですか?

どちらか一方を選ぶ必要はなく、組み合わせることが効果的です。外部研修で基礎知識やツールの使い方を学び、そこで得た知識を社内の実務に落とし込みながら定着させていく、という流れが現実的です。特に最初の一歩としては、外部研修でキーパーソンを育て、その人が社内に展開していく形が中小企業では取り組みやすいでしょう。

Q. 一部の社員しかDXに興味を示しません。どうすればよいですか?

全員が最初から積極的である必要はありません。まずは興味を示す社員を中心に小さな成功事例を作り、その成果を社内で共有することで、興味を持つ社員を徐々に増やしていくアプローチが有効です。無理に全員を同時に巻き込もうとするより、着実に実績を積み上げる方が結果的に定着しやすくなります。

育成と並行して検討したい外部リソースの活用

内製化を進めるといっても、すべてを自社だけで完結させる必要はありません。前述のIT導入支援事業者や、地域の商工会議所・商工会が実施するDX関連のセミナー・専門家派遣制度なども活用しながら、社内の人材育成を後押しする外部リソースを組み合わせるとよいでしょう。特に最初のツール選定やロードマップ作成の段階で専門家の視点を借りることで、社内だけで検討するよりも遠回りを減らせる場合があります。

重要なのは、外部リソースを「丸投げ先」ではなく「伴走者」として位置づけることです。外部に任せきりにしてしまうと、結局ノウハウが社内に蓄積されず、前述した「特定の1人(または1社)への依存」と同じ構造に陥ってしまいます。

参考にした主な調査・資料

まとめ

DX人材の不足は、多くの中小企業にとって共通の悩みですが、採用だけに頼らず、社内で育成する仕組みを整えることで乗り越えている企業も存在します。まずは自社のDX推進が「特定の1人」に依存していないか見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。