「サイバー攻撃を受けるのは大企業だけ」と思っていないでしょうか。実際には、取引先を踏み台にした攻撃(サプライチェーン攻撃)が増えており、防御の手薄な中小企業が狙われるケースが目立っています。とはいえ、専任のセキュリティ担当者を置く余裕がない中小企業も多いはずです。

この記事では、IPA(情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」をもとに、限られたリソースの中で優先して取り組むべき対策5選を、実務でそのまま使える形で解説します。

※本記事は2026年7月4日時点の情報をもとに作成しています。最新の内容はIPA公式サイトでご確認ください。

なぜ中小企業が狙われるのか

IPAが毎年公表している「情報セキュリティ10大脅威2026」(組織編)では、1位に「ランサム攻撃」、2位に「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が挙げられています。これは、大企業本体は対策が進んでいても、取引先である中小企業のセキュリティが手薄だと、そこを踏み台にして大企業側に侵入される、という構図が背景にあります。

つまり中小企業にとってセキュリティ対策は「自社を守るため」だけでなく、「取引先から選ばれ続けるため」の条件にもなりつつあります。実際、取引先から「セキュリティ対策の状況を教えてほしい」といった問い合わせを受けるケースも増えており、対策状況を説明できるようにしておくこと自体が、営業上の信頼につながる時代になっています。

IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」とは

IPAは2026年3月に「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」を公開しました。経営者向けに対策の必要性を説く「経営者編」と、実際の対策手順をまとめた「実践編」で構成されており、専任担当者がいない企業でも段階的に対策を進められる内容になっています。ガイドラインには「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」という付録シートも用意されており、基本的対策・従業員対策・組織的対策の観点からチェック項目に沿って自社の状況を点検できます。まずはこの自社診断から始めて、自社の弱点がどこにあるかを把握するのもおすすめです。

中小企業が最低限やるべき対策5選

1. OS・ソフトウェアを常に最新の状態に保つ

OSやソフトウェアの脆弱性(セキュリティ上の欠陥)は、公表されるとすぐに攻撃の標的になります。Windows UpdateやソフトウェアメーカーからのアップデートはIT担当者・現場の判断で後回しにされがちですが、「更新通知が来たら即対応する」というルールを社内で徹底するだけでも、多くの攻撃を防げます。

実務上のポイントとしては、社内の全PC・サーバーの台数と、それぞれのOS・主要ソフトのバージョンを一覧化しておくことです。台帳がないと「どのPCが未更新か」を把握できず、対応漏れの温床になります。また、業務で使うルーターやNAS(ネットワーク接続ストレージ)などのネットワーク機器も、ファームウェアの更新が必要な対象であることを忘れないようにしましょう。

2. ウイルス対策ソフトを導入し、最新の状態を維持する

ウイルス対策ソフトは入れて終わりではなく、定義ファイルを最新に保つこと・全社員のPCに漏れなく導入されていることの2点が重要です。特に個人所有端末を業務に使うBYOD運用がある企業は、対象端末が管理から漏れやすいので注意してください。

予算に余裕がある場合は、単なるウイルス対策ソフトだけでなく、不審な挙動を検知して対応するEDR(エンドポイント検知・対応)製品の導入も選択肢になります。まずは基本的なウイルス対策ソフトを全端末に確実に入れることを優先し、余力があれば段階的にレベルアップしていくとよいでしょう。

3. パスワードを強化する

「他のサービスと同じパスワードを使い回す」「単純な文字列にする」は、不正ログインの最も基本的な原因です。可能であれば、パスワードに加えてスマートフォン認証等を組み合わせる「多要素認証」を、クラウドサービスやメールなど重要なシステムから優先して導入しましょう。

パスワード管理ツールの活用も有効です。従業員が多数のパスワードを個別に記憶する必要がなくなり、複雑で使い回しのないパスワードを設定しやすくなります。あわせて、退職者のアカウントを速やかに無効化する運用ルールも整えておきましょう。

4. 共有設定を見直す

クラウドストレージやオンラインファイル共有サービスで、「リンクを知っている全員が閲覧可能」といった設定のまま重要な情報を共有していないか、定期的に見直してください。退職者のアカウントを放置していないかのチェックも、共有設定の見直しに含めて実施することをおすすめします。

特に注意したいのは、取引先とのファイルやり取りで一時的に公開設定にしたリンクを、共有が終わったあとも非公開に戻し忘れているケースです。半年に1回など定期的な棚卸しのタイミングを決めておくと、こうした放置を防ぎやすくなります。

5. 脅威や手口を知る

取引先や上司を装う「なりすましメール」、偽サイトへ誘導する「フィッシング」など、攻撃の手口は日々変化しています。IPAが発表する最新の脅威情報に目を通す、標的型メール訓練を実施するなど、従業員が「怪しいメールを見抜く目」を持てる状態を維持することが、システム面の対策と同じくらい重要です。

訓練の実施が難しい場合でも、「不審なメールの添付ファイルは開かない」「知らないリンクはクリックしない」「少しでも違和感があれば周囲に相談する」という3つのルールを朝礼や社内掲示で繰り返し伝えるだけでも、意識づけの効果が期待できます。

あわせて押さえておきたい追加ポイント

上記5選に加えて、IPAの最新ガイドライン(第4.0版)で特に強調されているのが「バックアップ」です。ランサム攻撃は10大脅威の1位であり、データを暗号化されて身代金を要求される被害が後を絶ちません。バックアップを定期的に取り、かつ社内ネットワークから切り離した場所に保管しておけば、万が一被害に遭っても復旧できる可能性が大きく高まります。

また、次の2つも中小企業にとって取り組みやすい施策です。

  • SECURITY ACTIONの宣言:IPAが推進する自己宣言制度。無料で取り組め、対外的な信頼性の向上に加え、各種補助金の申請要件になっている場合もあります。
  • サイバーセキュリティお助け隊サービスの活用:中小企業向けに低コストでセキュリティ対策の相談・支援を受けられる公的な枠組みです。何から手をつければよいか分からない場合の相談窓口として活用できます。

「情報セキュリティ6か条」もあわせてチェック

IPAは以前から、特に重要な基本対策を「情報セキュリティ5か条」として整理しており、第4.0版ではバックアップに関する項目が加わり実質6か条となっています。今回紹介した5選と重なる部分も多いので、社内での注意喚起用のチェックリストとしても活用できます。

  • OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう
  • ウイルス対策ソフトを導入しよう
  • パスワードを強化しよう
  • 共有設定を見直そう
  • 脅威や手口を知ろう
  • バックアップを取ろう(第4.0版で追加)

朝礼やミーティングの場でこの6項目を印刷して掲示するだけでも、従業員の意識づけとして一定の効果が期待できます。まずは自社がこの6項目のうち何個クリアできているか、簡単に確認してみることをおすすめします。

よくある質問

Q. セキュリティ対策にどれくらいの予算をかければよいですか?

企業の規模や取り扱う情報によって適切な水準は異なりますが、まずは今回紹介した5選のうち無料または低コストで対応できるもの(パスワード強化、共有設定の見直し、社内での注意喚起)から着手し、そのうえで予算に応じてウイルス対策ソフトの強化やお助け隊サービスの利用を検討する、という段階的な進め方が現実的です。

Q. 万が一サイバー攻撃の被害に遭ってしまったら、まず何をすべきですか?

感染や不正アクセスが疑われる端末は、被害拡大を防ぐためにまずネットワークから切り離すことが基本です。そのうえで、IPAや契約しているセキュリティサービスの窓口、必要に応じて警察に相談してください。日頃からバックアップを取っておくことが、復旧のスピードを大きく左右します。

Q. クラウドサービスを使っていれば、自社での対策は不要ですか?

クラウドサービス側がインフラのセキュリティを担っていても、ID・パスワードの管理や共有設定など、利用者側の設定に起因する情報漏えいは数多く発生しています。クラウドを使っているからといって安心せず、自社側の運用ルールも並行して整備する必要があります。

Q. セキュリティ対策の状況を取引先から聞かれた場合、どう説明すればよいですか?

SECURITY ACTIONの宣言状況や、今回紹介した5選のうちどこまで対応しているかを具体的に説明できるようにしておくと安心です。「何となく対策している」ではなく、「OS更新・ウイルス対策ソフト・多要素認証・バックアップに対応している」といったように、実施項目を棚卸ししておくと、取引先からの問い合わせにもスムーズに答えられます。

参考にした主な調査・資料

まとめ

サイバーセキュリティ対策は、専任担当者や大きな予算がなくても、優先順位をつけて一つずつ取り組むことができます。まずは今回紹介した5選のうち、自社でできていないものから着手し、余力があればバックアップ体制の見直しやSECURITY ACTIONの宣言にも取り組んでみてください。最新の脅威動向やガイドラインの詳細は、IPA公式サイトで随時確認することをおすすめします。