「プログラミングの知識がなくても、自分たちで業務アプリが作れる」——そんな触れ込みで注目されているのがノーコード・ローコード開発ツールです。別記事「DX人材が育たない中小企業の共通点」で紹介した企業も、ノーコードツールを活用して現場社員自身が業務アプリを作れる体制を整えていました。この記事では、ノーコード・ローコードの違いと、代表的なツールの特徴・料金を比較します。

ノーコードとローコードの違い

IPA(情報処理推進機構)の解説サイト「DX SQUARE」では、開発に必要なスキル・コスト・柔軟性という観点で、ノーコード、ローコード、従来型のプログラミング(ハイコード)を並べて整理しています。ノーコードはソースコードを一切記述せずに開発できる手法で、必要なスキル・コストは最も低い一方、対応できる柔軟性も限定的です。ローコードは最小限のコード記述でカスタマイズできる手法で、ノーコードよりも複雑な要件に対応しやすい分、ある程度の知識が必要になります。

おおまかな目安として、シンプルな業務アプリ(日報や申請フォームなど)であればノーコード、既存の基幹システムと連携する複雑な業務アプリであればローコードが向いているとされています。

ノーコードかローコードか、迷ったときの判断軸

「結局どちらを選べばいいのか」と迷う場合は、次の2点を目安に考えるとよいでしょう。

  • 作りたいアプリの複雑さ:申請フォームや簡単な一覧管理であればノーコードで十分対応できます。複数のシステムとデータを連携させたい、独自の複雑な処理を組み込みたいといった要件がある場合は、ローコードの方が対応しやすくなります
  • 社内のITスキル:全くの未経験者が中心であればノーコードから始め、ある程度ITに詳しい担当者がいる場合はローコードも選択肢に入れる、という考え方が現実的です

最初から完璧に使い分けようとせず、まずは身近な業務でノーコードツールを試し、必要に応じてローコードの機能も取り入れていく、という段階的な進め方をおすすめします。

国内での普及状況

ノークリサーチが2026年2月に発表した「2025年版 中堅・中小企業のITアプリ開発ツール利用実態と展望レポート」(年商500億円未満の中堅・中小企業1,300社対象)によると、ノーコード・ローコードツールを「導入済み」と回答した企業は34.5%にのぼります。興味深いのは、企業がツールに感じている利点として、「内製化できること」(23.1%)よりも、「SIベンダーが要求仕様を反映しやすくなること」(35.2%)や「自社の都合に合わせて改変できること」(37.5%)の方が高い割合を占めている点です。ノーコード・ローコードは、必ずしも「外部委託をやめて自分たちで作る」ためだけの手段ではなく、外部の開発パートナーとの橋渡しをスムーズにする役割も果たしていることがうかがえます。

市場調査会社ITRによると、国内のローコード・ノーコード市場規模は2023年度に812.2億円(前年比14.5%増)に達し、2028年度には2023年度比1.8倍に成長すると予測されています。IDC Japanの調査でも、国内企業の導入率は2020年8月の8.5%から2021年9月には37.7%へと急増しており、短期間で普及が進んだ分野であることが分かります。

代表的なツールの特徴と料金

ツール名 料金の目安 特徴
kintone(サイボウズ) ライト1,000円/スタンダード1,800円/ワイド3,000円(人/月、税抜、最小契約10人) 業務アプリ全般に対応。国内での事例・サポート体制が豊富
Microsoft Power Apps Premiumプラン 2,998円/ユーザー/月(年間契約) Microsoft 365との連携がしやすい。既にOffice製品を使っている企業と相性が良い
Google AppSheet Starter 5ドル/Core 10ドル/Enterprise Plus 20ドル(ユーザー/月) Google Workspaceとの連携がしやすい。スプレッドシートを土台にしたアプリ作成が可能
Glide 無料プランあり/Business 199ドル〜/月(30ユーザー込み) スプレッドシートのデータを、見た目の良いアプリに変換しやすい
Bubble Starter 29ドル〜/月(年払い) ノーコードの中でも自由度が高く、より複雑なWebアプリの構築にも対応

料金は2026年7月5日時点で各社公式サイトに掲載されていた情報です。プランや金額は変更されることがあるため、契約前に必ず最新情報をご確認ください。

よくある活用シーン

ノーコード・ローコードツールは、次のような業務でよく活用されています。

  • 勤怠管理(労働時間の自動集計、給与システム向けデータ出力)
  • 在庫管理(仕入・販売データからの在庫自動計算)
  • 顧客・案件管理(営業の進捗管理、問い合わせ対応履歴の記録)
  • 日報・現場写真の管理(特に建設業などで活用が進んでいます)
  • 見積作成・予約管理

導入時の注意点

便利なノーコード・ローコードツールですが、導入にあたっては次の点に注意が必要です。

  • ベンダーロックイン:特定のツールの仕様やデータ形式に依存するため、将来別のツールに乗り換える際、移行の手間が発生する可能性があります
  • セキュリティ:ISO/IEC27001などの認証取得状況、IPアドレス制限や多要素認証への対応、データの保管場所などを事前に確認しておく必要があります
  • 機能の制約:特にノーコードは用意された部品・テンプレートの組み合わせが中心となるため、複雑な要件には対応しづらい場合があります
  • 「野良アプリ」のリスク:現場の各部署が個別に小さなアプリを乱立させてしまうと、全社的な管理やセキュリティ統制が煩雑になる懸念があります。この点は、別記事「現場がDXに反対する理由と対処法」で紹介した「シャドー運用」にも通じる注意点です

中小企業がツールを選ぶ際の判断基準

すでにMicrosoft 365を使っている企業はPower Apps、Google Workspaceを使っている企業はAppSheetというように、既存のツールとの連携のしやすさを軸に検討すると選びやすくなります。業務アプリ全般を幅広くカバーしたい場合は、国内での事例が豊富なkintoneも有力な選択肢です。前述のとおり、内製化そのものよりも「外部の開発パートナーとの連携をスムーズにする」目的で導入する企業も多いため、自社が目指す活用の方向性を最初に整理しておくとよいでしょう。

よくある質問

Q. プログラミング未経験でも本当に使いこなせますか?

シンプルな業務アプリ(申請フォームやデータ一覧など)であれば、プログラミング未経験でも扱えるように設計されています。ただし、複雑な条件分岐や外部システムとの連携などを行う場合は、ある程度の学習や、詳しい人のサポートがあると安心です。

Q. 無料プランだけで業務に使い続けることはできますか?

ツールによっては無料プランでも簡単なアプリ作成は可能ですが、利用人数やデータ量に制限があることが一般的です。まずは無料プランで使用感を確かめ、本格的に業務へ組み込む段階で有料プランへの移行を検討するとよいでしょう。

Q. 現場の各部署がバラバラにアプリを作ってしまうのを防ぐには?

誰が何のアプリを作っているかを一覧化し、定期的に棚卸しする仕組みを作ることが有効です。DX推進の担当者や部署ごとの推進役を決めておくと、乱立を防ぎやすくなります。人材育成の進め方については、別記事「DX人材が育たない中小企業の共通点」もあわせてご覧ください。

参考にした主な調査・資料

まとめ

ノーコード・ローコードツールは、専門知識がなくても業務アプリを作れる手段として、中小企業でも急速に普及が進んでいます。内製化だけでなく、外部の開発パートナーとの連携をスムーズにする効果もあるため、自社がどのような目的で活用したいのかを整理したうえで、既存ツールとの連携のしやすさを軸に選ぶとよいでしょう。