DXが進まない中小企業の特徴とは?始める前に知っておきたいこと
「DXが進まない中小企業の失敗パターン」については別記事で紹介しましたが、そもそも「まだ着手できていない」「着手したものの止まったまま」という企業も少なくありません。この記事では、DXがなかなか前に進まない中小企業に共通する特徴を、始める前の段階に焦点を当てて整理します。
中小企業のDX、実際どのくらい進んでいるか
東京商工リサーチの調査(2023年8月実施、有効回答5,030社)によると、DXに取り組んでいる中小企業は40.6%で、大企業の66.0%と比べて25.4ポイントの差があります。DXへの投資予算についても「500万円未満」と回答した企業が41.2%を占めており、大企業と比べて投資規模自体が小さいことがうかがえます。
中小企業基盤整備機構が2024年10〜11月に実施した調査でも、「既に取組んでいる」「検討中」を合わせて42.0%にとどまり、「取組む予定はない」と回答した企業も30.9%残っています。DXという言葉自体は広く知られるようになった一方で、実際に着手できている企業とそうでない企業の差は依然として大きいのが実情です。
DXが進まない中小企業に共通する5つの特徴
1. 経営層がDXにあまり関与していない
中小機構の調査では、DXに取組んでいない理由として「経営者の意識・理解が足りないこと」を挙げた企業が9.7%存在します。IPAの調査(DX動向2025)でも、DXで成果を上げている企業の特徴として「経営層のデジタル知見」が挙げられており、裏を返せば経営層の関与が薄い企業ほど、DXが総花的な掛け声で終わりやすいといえます。
2. 「効果が見えない」ため優先順位が上がらない
同じく中小機構の調査で、DXに取組んでいない理由の中で最も多かったのが「具体的な効果や成果が見えない」(23.9%)でした。効果が見えなければ、限られた経営資源を割く優先順位もどうしても下がってしまいます。
3. 投資予算を確保できていない
中小機構の調査では「予算が不足している」(23.6%)、東京商工会議所の調査(2025年1月公表)でも「コスト負担」(31.9%)が課題として挙げられています。前述のとおり、中小企業のDX投資予算は「500万円未満」が4割を占めており、そもそも投資に回せる原資が限られているという構造的な問題もあります。
4. 推進を担う人材・旗振り役がいない
中小機構の調査では「推進できる人材がいない」(18.1%)「開発できる人材がいない」(14.6%)が課題として挙げられ、東京商工会議所の調査でも「旗振り役が務まる人材がいない」(31.0%)が上位に入ります。誰が音頭を取るのかが決まっていないと、いつまでも検討段階から抜け出せません。
5. 「今のままで困っていない」という現状維持志向
これは定量的な調査というより、DX支援の現場でよく指摘される傾向ですが、既存のやり方で一定の売上・利益を確保できている企業ほど、変化のリスクを取ってまでDXに取り組む必要性を感じにくいという心理的な壁があります。目の前の業務が回っている限り、「いつか着手すればいい」という先送りが起こりやすくなります。
この5つの特徴は、それぞれ独立しているわけではなく、互いに影響し合っています。たとえば経営層の関与が薄いと予算も確保されにくくなり、予算がなければ推進人材を新たに配置することも難しくなる、という悪循環に陥りやすい構造があります。逆にいえば、経営層が一つでも関与を強めれば、他の課題の解消にもつながりやすいということでもあります。
自社が当てはまっていないかセルフチェック
前述の5つの特徴をもとに、自社の状況を簡単にチェックしてみましょう。
- □ 経営者・役員がDXに関する会議や検討に定期的に関わっている
- □ 過去に導入したデジタルツールについて、効果を数字で説明できる
- □ DX関連の投資について、単年度だけでなく複数年の予算計画がある
- □ DX推進の責任者・担当者が社内で明確になっている
- □ 「今のやり方に不満はないが、将来を見据えて変えるべき部分がある」と考えている
チェックが付かない項目が多いほど、DXが「検討段階」から先に進みにくい状態にあるといえます。すべてを一度に満たそうとする必要はなく、チェックが付かなかった項目のうち、最も着手しやすいものから手をつけることをおすすめします。
「検討中」が長引くことのリスク
DXへの着手が「検討中」のまま長期間止まってしまう企業も少なくありません。すぐに業績への悪影響が出るわけではないため、優先順位が上がりにくいのですが、前述のとおり大企業とのDX取り組み率の差(66.0%対40.6%)は、時間の経過とともに競争条件の差として表れてくる可能性があります。取引先が求める対応スピードやデータ連携の水準が年々上がっていく中で、着手が遅れるほど、後から追いつくためのコストが大きくなりやすい点には注意が必要です。
だからといって焦って高額な投資に踏み切る必要はありません。重要なのは、「検討中」の期間を漫然と過ごすのではなく、次の章で挙げる3つの問いに答えを出すことを目標に、期限を区切って検討を進めることです。
始める前に自社に問いたい3つの問い
これから着手しようとしている中小企業は、本格的にツールを選ぶ前に、次の3つを自社に問いかけてみることをおすすめします。
- 経営者自身が、DXに取り組む目的を自分の言葉で説明できるか:「流行っているから」ではなく、自社の経営課題とどうつながるのかを言語化できているかを確認する
- 予算とスケジュールについて、現実的な見積もりがあるか:初期費用だけでなく運用コストまで含めて、どの程度の予算・期間を見込んでいるかを事前に整理する
- 誰が推進役になるかが決まっているか:専任でなくても構わないので、責任を持って進捗を追いかける人を最低1人決めておく
この3つが曖昧なまま着手すると、前述した5つの特徴に当てはまる状態に陥りやすくなります。逆にいえば、この3点さえクリアになっていれば、DXの検討段階から実行段階に進みやすくなります。
「まだ始めていない」こと自体は問題ではない
中小機構の調査で「取組む予定はない」企業が30.9%残っているという数字を見ると不安になるかもしれませんが、これ自体は決して珍しいことではありません。重要なのは、着手が遅れていることを悲観することではなく、着手する際に何から手をつけるかを見誤らないことです。
具体的な進め方については、別記事「DX人材が育たない中小企業の共通点|内製化に成功する社内体制の作り方」や「現場がDXに反対する理由と対処法」でも詳しく解説しています。予算面で不安がある場合は「デジタル化・AI導入補助金」のような支援制度の活用も選択肢になります。
よくある質問
Q. 何から着手すればDXが「進んでいる」と言えるようになりますか?
いきなり大きな変革を目指す必要はありません。まずは前述の3つの問い(目的・予算・推進役)を明確にしたうえで、身近な業務のデジタイゼーション・デジタライゼーションから着手すれば、それは着実な一歩です。DXの定義については、別記事「2026年、中小企業にとってのDXとは?」もあわせてご覧ください。
Q. 経営者がITに詳しくない場合でも、DXは進められますか?
経営者自身がITの専門知識を持っている必要はありません。重要なのは、専門的な技術を理解することではなく、「なぜ取り組むのか」という目的意識を持ち、推進役を任命して継続的に関心を示し続けることです。
Q. 「今のやり方で困っていない」場合、無理にDXに取り組む必要はありますか?
現時点で業績に問題がなくても、取引先の要請や人手不足の進行、競合他社の動向によって、状況は数年単位で変化する可能性があります。今すぐ大きな投資をする必要はありませんが、「将来的にどんな変化が起こりうるか」を経営者自身が考え始めておくこと自体が、DXへの第一歩になります。
参考にした主な調査・資料
- 東京商工リサーチ「DXへの取り組み、中小企業は4割にとどまる」(2023年8月調査)
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)」
- 東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」集計結果(2025年1月公表)
- IPA「DX動向2025」
まとめ
DXが進まない中小企業には、経営層の関与不足、効果の見えにくさ、予算不足、推進人材の不在、現状維持志向という共通の特徴が見られます。これから着手する企業は、ツール選びの前に「目的・予算・推進役」の3点を明確にしておくことが、スムーズな一歩につながります。