販売物流とは?調達物流・生産物流との違いとDXで解決すべき課題
これまで「ミルクラン方式」(調達物流)、「工場内物流」(生産物流)と、物流を機能別に見る記事を紹介してきました。この記事では、完成した製品を顧客の手元に届けるまでを担う「販売物流」を取り上げ、DXでどのような課題に対応できるかを整理します。
物流の4分類:調達物流・生産物流・販売物流・回収物流
物流は一般的に、モノの流れに沿って「調達物流」「生産物流」「販売物流」「回収物流(静脈物流)」の4つに分類されます。調達物流は原材料・部品の仕入れ、生産物流は工場内でのモノの移動、販売物流は完成品を顧客に届けるまで、回収物流は不要品・廃棄物の回収や返品対応を指します。このうち販売物流は、企業の売上に直結する「最後の砦」ともいえる領域です。4分類を一覧にすると、次のように整理できます。
| 分類 | 対象範囲 | 関連記事 |
|---|---|---|
| 調達物流 | 仕入先からの部品・原材料の集荷 | ミルクラン方式とは? |
| 生産物流 | 工場内での工程間搬送 | 工場内物流とは? |
| 販売物流 | 完成品倉庫から卸・小売・消費者への配送 | 本記事 |
| 回収物流(静脈物流) | 返品・不要品・廃棄物の回収 | 回収物流(静脈物流)とは? |
販売物流とは何か:狭義と広義
「販売物流」の定義は、情報源によって幅があります。狭義には「完成品を保管するメーカーの物流センターから、卸売業者・小売店への幹線輸送、店舗への補充」までを指します。一方、近年ではEC(ネット通販)の普及により、物流センターから消費者への直送までを含めた、より広い意味で使われることも増えています。つまり販売物流は、従来のBtoB(卸・小売への納品)を中核としながらも、BtoC(消費者への直送)を含む概念へと拡張しつつある、と理解しておくとよいでしょう。
販売物流が抱える課題
販売物流の現場では、次のような課題がよく指摘されます。
- 需要予測の精度:予測が外れると、欠品による販売機会の損失、または過剰在庫による保管コスト増加につながります
- EC対応での配送コスト増:小口・多頻度の配送が必要になるEC直送は、まとめて配送するBtoB納品に比べて配送コストが割高になりやすく、送料が売上に占める割合が高くなる事業者もあります
- 2024年問題との複合:別記事「物流の2024年問題は結局どうなった?現状と対策」で紹介したとおり、宅配便の値上げが相次いでおり、EC事業者にとってはコスト増要因がさらに重なっている状況です
BtoBの壁:「3分の1ルール」という商慣行
加工食品業界を中心に、販売物流の効率を妨げてきた商慣行として知られているのが「3分の1ルール」です。農林水産省によれば、これは「賞味期間の3分の1以内で小売店舗に納品する」という慣例で、このルールのもとでは、賞味期限まで多くの日数を残していても、納品期限を過ぎた商品は行き場がなくなり廃棄されてしまう可能性があるとされています。
この商慣行の見直しに向けて、農林水産省は事業者への働きかけを続けています。最新の公表データ(令和7年10月時点)では、納品期限の緩和に取り組む事業者が377事業者(前年度比+38)、賞味期限表示の大括り化に取り組む事業者が365事業者(同+15)、賞味期限の延長に取り組む事業者が393事業者(同+34)に達しています。また、国土交通省が2020年に公表した「加工食品物流編」ガイドラインでは、3分の1ルールが検品時間の長期化やドライバーの長時間労働の一因になっていると指摘されており、経済産業省・農林水産省・国土交通省が連名で公表した2023年6月のガイドラインでも、商慣行の見直しが物流の生産性向上策として位置づけられています。公正取引委員会の相談事例集でも、複数の小売事業者が「3分の1ルール」から「2分の1ルール」への移行を共同で宣言した事例が紹介されており、見直しの動きは着実に広がりつつあります。
なお、こうした商慣行の見直しとDX(需要予測AIによる発注最適化、賞味期限データのシステム連携等)を組み合わせた個別企業の具体的な取り組み事例までは、本記事執筆時点で確認できていません。この点は今後の追加調査が必要な領域として、正直にお伝えしておきます。
BtoC-ECの壁:送料負担とラストマイル
EC直送が拡大する中で、販売物流のもう一つの課題が「ラストマイル」(配送の最終区間)です。前述の再配達の問題や、宅配便の値上げは、EC事業者にとって送料原価の上昇に直結します。送料を顧客に転嫁するか、自社で吸収するかの判断は、販売価格・利益率に直接影響する経営判断であり、単なる物流部門だけの課題にとどまりません。特に自社ECサイトを運営する中小企業にとっては、「送料無料ライン」の設定額をいくらにするか、複数の配送業者をどう使い分けるかといった判断が、収益性を左右する重要な経営判断になります。
販売物流DXの代表的なKPIと施策
販売物流の状態を把握するための代表的な指標には、欠品率(注文があったのに在庫がなく販売機会を逃した割合)、在庫回転率(在庫がどれだけ効率的に販売に回っているか)、送料原価率(売上に対する配送コストの割合)などがあります。これらの指標を改善するためのDX施策としては、需要予測AIによる発注量の最適化、複数拠点の在庫を一元管理し最適な出荷拠点から届ける在庫配置の最適化、EC受注から出荷指示までを自動化する仕組みなどが一般的に紹介されています。個別の指標をどう改善するかは、自社の在庫管理体制と密接に関わるため、別記事「WMSとは?倉庫管理システムの基本とTMSとの違い」で紹介したWMSの活用もあわせて検討する価値があります。
中小企業が販売物流DXに取り組む際の考え方
中小企業が販売物流のDXに着手する際は、次の順序で検討すると進めやすくなります。
- 自社の販売物流がBtoB中心かBtoC(EC)中心かを整理する:中核となる課題が、商慣行への対応(BtoB)なのか、送料負担・配送スピード(BtoC)なのかによって、優先すべき打ち手が変わります
- 欠品率・在庫回転率など、自社の現状数値をまず把握する:改善効果を測定するためにも、DX施策導入前の基準値を持っておくことが重要です
- 需要予測の精度向上から着手する:欠品・過剰在庫の両方に効いてくる領域であり、比較的投資対効果を見込みやすい着手点です
- 取引先・卸との商慣行の見直しは、自社単独で進めず業界の動きに乗る:3分の1ルールのような商慣行は、自社だけで変更できるものではありません。業界団体や主要取引先の動向を注視し、見直しの機運が高まったタイミングで対応を進める方が現実的です
よくある質問
Q. 販売物流とEC物流は同じ意味ですか?
完全に同じではありません。EC物流はEC(ネット通販)に特化した物流を指す、より狭い概念です。販売物流はBtoB(卸・小売納品)とBtoC(EC直送等)の両方を含む、より広い概念として使われることが一般的です。
Q. 3分の1ルールは法律で決められているのですか?
いいえ、法律ではなく、業界内の商慣行(慣例)です。そのため強制力はありませんが、長年の取引慣習として根付いており、見直しには荷主・小売・卸を含めた関係者間の合意形成が必要とされています。
Q. 中小企業でも需要予測AIは導入できますか?
近年はクラウド型で比較的低コストから利用できる需要予測サービスも増えています。ただし精度の高い予測には一定期間の販売実績データが必要なため、導入前にどの程度のデータを保有しているかを確認しておくことをおすすめします。
Q. 販売物流と回収物流はどう関係しますか?
EC通販の返品対応や、店舗からの売れ残り商品の回収は「回収物流(静脈物流)」に分類されます。特にBtoC-ECでは返品率が一定程度発生することを前提に、販売物流と回収物流をあわせて設計しておくことが、顧客満足度とコストのバランスを取るうえで重要になります。
参考にした主な調査・資料
- 農林水産省:納品期限の緩和を進める事業者に関する公表資料
- 農林水産省:商慣習検討・3分の1ルールに関する取り組み状況
- 国土交通省:荷主と運送事業者の協力による取引環境改善ガイドライン(加工食品物流編)
- 経済産業省・農林水産省・国土交通省:物流の適正化・生産性向上に向けたガイドライン
- 公正取引委員会:相談事例集(2分の1ルールの共同宣言事例)
まとめ
販売物流は、完成品を顧客に届けるまでを担う、企業の売上に直結する領域です。BtoBでは「3分の1ルール」に代表される商慣行、BtoCではEC直送に伴う送料負担という、性質の異なる2つの課題を抱えており、自社がどちらに軸足を置くかによって、優先すべきDX施策も変わってきます。物流の他の機能領域については、別記事「ミルクラン方式とは?」(調達物流)、「工場内物流とは?」(生産物流)もあわせてご覧ください。