回収物流(静脈物流)とは?EC返品対応と関連法規制をわかりやすく解説
「ミルクラン方式」(調達物流)、「工場内物流」(生産物流)、「販売物流」と続けてきた物流の4分類シリーズの最後として、この記事では「回収物流(静脈物流)」を取り上げます。
静脈物流・回収物流とは何か
生産者から消費者へ向かうモノの流れを人体の「動脈」にたとえるのに対し、消費者から生産者・処理業者へ向かう逆方向の流れは「静脈物流」と呼ばれます。英語の「リバースロジスティクス(Reverse Logistics)」とほぼ同義で使われる言葉です。静脈物流はさらに、廃棄物として適正処理する「廃棄物流」、不用品やリサイクル品・通い容器(パレット等)を回収する「回収物流」、EC・小売で販売した商品の返品に対応する「返品物流」の3つに分けて整理されることが一般的です。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| 廃棄物流 | 産業廃棄物・一般廃棄物の収集運搬、処理施設への搬入 |
| 回収物流 | 使用済み家電・パレットや通い箱等の通い容器の回収、店舗からの売れ残り品の引き取り |
| 返品物流 | ECサイトで購入された商品の返品受付・検品・再商品化または廃棄の判断 |
このうち、パレットや通い箱といった通い容器の回収は、別記事「ミルクラン方式」で紹介した調達物流とも関わりが深い領域です。集荷に使ったトラックが空荷で帰る代わりに、使用済みの容器を回収して持ち帰る運用を組み合わせることで、輸送効率を高めている例もあります。
EC事業者にとっての返品物流:コストと返品率
中小企業にとって特に身近なのが、EC通販における返品対応です。返品率については調査によって数値の幅が大きく、6.6%(Recustomer、2023年)とする調査がある一方、事業者支援データの実測値として平均18.7%、アパレルでは最大34.2%に達するとする資料もあります。返品率が20%を超えると営業利益率が平均6.8ポイント低下するとの分析や、返品処理1点あたり10〜65ドルのコストがかかるという試算も見られます。これらの数値は出典によって前提条件・対象業種が異なるため幅を持って捉える必要がありますが、返品対応が単なる「付随業務」ではなく、収益を左右するコスト要因であることは共通して指摘されています。
回収物流に関わる代表的な法規制
回収物流は、いくつかの法規制とも深く関わっています。
- 家電リサイクル法:エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機の4品目を対象に、小売業者の引取り義務、製造業者のリサイクル義務、消費者の料金負担を定めた法律です。「家電リサイクル券」によって回収から引き渡しまでの流れが管理されます
- 容器包装リサイクル法:家庭ごみの体積の6割を占めるとされる容器包装廃棄物を対象に、消費者は分別排出、市町村は分別収集、事業者は再商品化という役割分担を定めています
自社が扱う製品・容器包装がこれらの法規制の対象に該当するかどうかは、回収物流の仕組みを設計するうえで最初に確認すべきポイントです。なお、パソコンや小型の電子機器については「使用済小型家電リサイクル法」という別の法律が対象としており、家電リサイクル法の4品目とは異なる枠組みで回収・リサイクルの仕組みが定められています。自社が製造・販売する製品がどの法律の対象になるかは、品目ごとに個別に確認する必要があります。
2024年問題は静脈物流にも影響するか
別記事「物流の2024年問題は結局どうなった?現状と対策」で紹介したドライバー不足の影響は、産業廃棄物の収集運搬といった静脈物流の現場にも及ぶとされています。収集日時の制約が厳しくなる、処理量が減少する、処理施設の稼働率が下がるといった懸念が複数の解説記事で指摘されていますが、その影響度を示す定量的なデータは、本記事執筆時点で確認できていません。
静脈物流DXの可能性
静脈物流に特化したDXの具体的な成功事例は、今回の調査では確認できませんでした。この点は正直にお伝えしておきます。ただし、一般的な物流DXの技術は静脈物流にも応用できる可能性があります。例えば、AIによる返品商品の仕分け自動化や、リサイクル資源がどこから回収され、どう処理されたかを記録するトレーサビリティ管理システムなどが考えられます。これらは動脈物流側で先行して活用が進んでいる技術であり、今後静脈物流への展開が進む余地がある領域と言えるでしょう。特に返品物流においては、返品理由・商品状態・再商品化の可否をデータとして蓄積していくことで、将来的に「返品されやすい商品の傾向」を分析し、商品ページの改善や在庫配置の見直しに活かすといった、動脈物流側へのフィードバックループを構築できる可能性があります。現時点ではこうした取り組みを体系的に行っている事例までは確認できていませんが、データを継続的に記録しておくこと自体は、将来の分析に備える意味でも今から始められる取り組みです。
中小EC事業者が返品対応で押さえておきたいポイント
返品物流のコスト構造を踏まえると、中小EC事業者は次の点を押さえておくとよいでしょう。
- 返品率を商品カテゴリ別に把握する:アパレル等、サイズ・色合いの実物確認が難しい商品カテゴリは返品率が高くなりやすいため、カテゴリ別に返品率を可視化し、事前の商品情報の充実(サイズ表・実寸掲載等)で防げる返品がないか検討します
- 返品処理のフローを標準化する:検品・再商品化可否の判断・再出荷までの流れが担当者ごとにばらついていると、処理コストが余計にかさみます
- 返品ポリシーを明確に提示する:返品条件・送料負担・返金までの期間を事前に明確に提示しておくことで、問い合わせ対応の手間や顧客とのトラブルを減らせます
- 再商品化・廃棄の判断基準を事前に決めておく:返品された商品を再度販売できる状態かどうかの判断が担当者の感覚に委ねられていると、品質のばらつきや、本来販売できる商品を廃棄してしまう機会損失につながります
よくある質問
Q. 静脈物流と回収物流は同じ意味ですか?
厳密には、静脈物流の方が広い概念です。静脈物流は「廃棄物流」「回収物流」「返品物流」の3つを含む総称として使われ、回収物流はその中の一部(不用品・リサイクル品・通い容器の回収)を指す、という関係にあります。
Q. 返品率を下げること自体が正しい目標ですか?
必ずしもそうとは限りません。返品のしやすさは顧客満足度やリピート購入率に影響するため、返品率をむやみに下げようとすると、かえって新規顧客の獲得機会を失う可能性があります。返品率そのものよりも、返品発生時の処理コストを抑える工夫の方が、多くの事業者にとって現実的な改善余地です。
Q. 中小企業が家電リサイクル法・容器包装リサイクル法の対象かどうかは、どこで確認できますか?
経済産業省・環境省の公式サイトに、それぞれの法律の対象事業者・対象品目に関する解説が掲載されています。自社の事業内容が該当する可能性がある場合は、公式情報を確認したうえで、必要に応じて所轄の自治体や専門家に相談することをおすすめします。
Q. 静脈物流に取り組むことは、コスト増にしかならないのですか?
短期的にはコストとして捉えられがちですが、リサイクル資源として売却できるものがあれば収益化につながる可能性がありますし、返品処理の効率化はコスト削減に直結します。また、環境配慮への取り組みとして、企業のブランドイメージ向上につながる面もあります。
参考にした主な調査・資料
まとめ
回収物流(静脈物流)は、返品対応・リサイクル・廃棄物処理といった「モノの流れの下り坂」を担う領域で、特にEC事業者にとっては返品コストという形で収益に直結します。関連法規制の対象になっていないかを確認しつつ、返品処理フローの標準化から着手することが、中小企業にとって現実的な一歩です。これで、調達・生産・販売・回収という物流の4分類をひととおり紹介しました。全体像については、別記事「物流DXとは?2024年問題・法改正・補助金までまとめて解説」もあわせてご覧ください。