ペーパーレス化のメリット・デメリット|数字で見る効果と進め方
「ペーパーレス化」を紹介する記事は数多くありますが、コスト削減額の根拠が曖昧だったり、都合の良いメリットばかりでデメリットにほとんど触れなかったりする記事も少なくありません。この記事では、実際の調査データと具体的な企業事例をもとに、メリットだけでなく見落とされがちな注意点まで含めて整理します。
日本企業のペーパーレス化、実際どこまで進んでいるか
ITツール会社インターコムが2025年2月に発表した士業430名対象の調査によると、電子化・ペーパーレス化に「対応している」と回答した割合は73.5%にのぼり、内訳は「各種届出のオンライン提出」58.9%、「帳簿・会計書類の管理共有」52.2%でした。一方、建設業を対象にした調査では「進んでいる」との回答は47.4%にとどまり、高齢化やITリテラシー不足、人材不足が障壁として指摘されています。業種によって進捗に差があることがうかがえます。
年商500億円以上の企業を対象にした日立ソリューションズ「活文」の調査(2025年6月公開)では、経理・人事といった社内業務のペーパーレス化率は50%を超える一方、請求書や契約書など社外とのやり取りに関するペーパーレス化率は40%未満にとどまっています。自社だけで完結する業務は進めやすい一方、取引先を巻き込む業務は足並みをそろえる必要があり、進みにくいという実態が見えてきます。
ペーパーレス化のメリット
ペーパーレス化のメリットとして、次のような点が挙げられます。
- コスト削減:前述の「活文」の調査では、ペーパーレス化に取り組んだ企業の50%が「月100万円以上のコストカットに成功した」と回答しています。ただし、この数字は調査対象企業の規模や調査方法によって左右されるため、自社にそのまま当てはまるとは限らない点には注意してください
- 検索性の向上・保管スペースの削減:朝日新聞倉敷販売では、段ボールで保管していた大量の伝票をデジタル化することで、保管スペースの問題を解消しています
- テレワーク対応・BCP(事業継続計画):サッポロビールは全国15拠点の支払伝票処理をスキャナとワークフローシステムでペーパーレス化し、紙伝票の授受を廃止することでテレワーク対応も実現しています
- 処理スピードの向上:日高町役場(自治体)では電子決裁の導入により、書類の保管量が3分の1に減少したと報告されています
見落とされがちなデメリット・注意点
多くの解説記事では触れられませんが、ペーパーレス化には見過ごせない負の側面もあります。IT企業ハンモックが実施した調査では、電子帳簿保存法への対応によって「業務負荷が増加した」と回答した企業が合計約7割(「大幅に増加した」15.7%、「やや増加した」51.9%)にのぼりました。また「保存要件を理解できている社員が少ない」(44.4%)、「データ管理が煩雑になった」(43.5%)、「作業が自動化されていない」(51.9%)といった課題も報告されています。
その他、次のような注意点もあります。
- システム障害・通信トラブルのリスク:紙であれば発生しないシステム障害やネット回線トラブルにより、業務が一時的に停止するリスクがあります
- ITリテラシーのばらつきへの対応:特に建設業の調査で指摘されているように、高齢の従業員が多い職場では、操作に慣れるまでのフォローが必要になります
- 初期費用・移行の手間:スキャナやワークフローシステムの導入費用に加え、既存の紙の書類を電子化する作業自体にも一定の手間がかかります
「メリットだけを見て導入し、電子帳簿保存法対応の負担増に驚く」という事態を避けるためにも、対応に必要な保存要件は事前に確認しておくことをおすすめします。詳しくは別記事「電子帳簿保存法とインボイス制度、DXでどう対応するか」もあわせてご覧ください。
ペーパーレス化の進め方5ステップ
- 紙業務の棚卸し:社内でどのような紙の書類・業務が発生しているかを洗い出す
- 優先順位づけ:取引先を巻き込まずに自社だけで完結する業務(経費精算、稟議、勤怠管理等)から着手する
- ツール選定:既存の会計・勤怠システムとの連携のしやすさを確認しながら選ぶ
- 小規模トライアル:1つの部署で2〜4週間程度試験導入し、課題を洗い出す
- 振り返り・横展開:トライアルの結果を踏まえて改善したうえで、他部署に展開する
前述の調査結果が示すとおり、社外とのやり取りを含む業務よりも、社内で完結する業務の方が着手しやすい傾向があります。まずは経費精算や稟議といった身近な業務から始めることをおすすめします。
優先的にペーパーレス化すべき書類の見分け方
すべての紙をいきなりなくそうとすると挫折しやすいため、次のような観点で優先度をつけることをおすすめします。
- 発生頻度が高い書類:日々何枚も発生する経費精算の領収書や勤怠記録は、少しの効率化でも積み重なると大きな効果になります
- 検索・参照する頻度が高い書類:過去の契約書や見積書など、後から探す機会が多い書類は、電子化による検索性向上の恩恵を受けやすい対象です
- 複数人が関わる書類:稟議書や承認フローが必要な書類は、紙の回覧による停滞が起きやすく、電子化による処理速度向上の効果が出やすい領域です
逆に、発生頻度が低く、社外との取り決めで紙のやり取りが前提になっている書類は、優先順位を下げて後回しにしても問題ありません。
実際の企業事例
サッポロビール:スキャナ保存でテレワーク対応も実現
全国15拠点の支払伝票処理を、スキャナとワークフローシステムを使ってペーパーレス化しました。電子帳簿保存法の「スキャナ保存制度」に対応した形で紙伝票の授受を廃止し、結果としてテレワークへの対応も実現しています。
朝日新聞倉敷販売:保管スペース問題を解消
段ボールで保管していた大量の伝票をデジタル化し、長年の課題だった保管スペースの問題を解消しました。
なお、本記事執筆時点では、具体的な削減金額や企業名が公表された中小企業単独の事例は確認できませんでした。多くの公開事例は大企業や自治体のものであり、中小企業が参考にする際は、規模の違いを踏まえて「進め方」の部分を中心に参考にすることをおすすめします。
よくある質問
Q. 紙をすべてなくさないとペーパーレス化とはいえませんか?
完全に紙をなくす必要はありません。取引先との紙のやり取りが残っていても、社内業務からペーパーレス化を進めるだけで、検索性の向上やテレワーク対応といった効果は得られます。
Q. 電子帳簿保存法の対応で負担が増えるなら、紙のままの方がよいのでは?
電子取引データについては2024年1月から電子保存が義務化されているため、紙に戻すという選択肢自体がすでに限定的です。負担増を理由に対応を避けるのではなく、対応に必要な体制を計画的に整えることが現実的な対応になります。
Q. ペーパーレス化にどれくらいの期間がかかりますか?
企業の規模や対象範囲によって異なりますが、前述の5ステップのうち、1つの部署でのトライアルだけであれば2〜4週間程度で最初の効果を確認できます。全社展開まで含めると、数か月単位で段階的に進めるのが一般的です。
Q. 取引先が紙でのやり取りを希望している場合はどうすればよいですか?
取引先の意向を無視して一方的に電子化を進めるのは現実的ではありません。前述のとおり、まずは自社内で完結する業務から着手し、取引先との調整が必要な部分は優先順位を下げて、時間をかけて移行を打診していくのが現実的な進め方です。
参考にした主な調査・資料
- インターコム 士業430名対象ペーパーレス化調査(2025年2月)
- 建設業のペーパーレス化に関する調査
- 日立ソリューションズ「活文」ペーパーレス化実態調査
- ハンモック 電子帳簿保存法対応の実態調査
- サッポロビール ペーパーレス化事例
まとめ
ペーパーレス化にはコスト削減や検索性向上、テレワーク対応といったメリットがある一方、電子帳簿保存法対応による業務負荷の増加など、見過ごせないデメリットも存在します。メリットだけに目を向けるのではなく、自社が対応すべき保存要件や運用の負担も踏まえたうえで、社内で完結する業務から段階的に進めることが、失敗しない進め方のポイントです。