DXを具体的に進めようとすると、多くの場面で「クラウドサービス」という言葉に行き当たります。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった名前を聞いたことはあっても、「結局何が便利なのか」「自社のサーバーと何が違うのか」がよく分からない、という方も多いのではないでしょうか。この記事では、非エンジニアの方にも分かるように、クラウド移行がなぜ重要なのかを整理します。

クラウドサービスの利用は年々増加している

総務省「令和6年通信利用動向調査」(2024年8月末時点、従業員100人以上の企業6,040社対象)によると、クラウドサービスを利用している企業は80.6%にのぼります。内訳は「全社的に利用している」が53.1%、「一部の事業所・部門で利用している」が27.6%です。この割合は令和4年の72.2%、令和5年の77.7%から着実に増加しており、クラウド活用はもはや一部の先進企業だけの取り組みではなくなっています。

なお、この調査は従業員100人以上の企業を対象としており、より小規模な中小企業全体の利用率とは異なる可能性がある点に注意してください。とはいえ、企業規模を問わずクラウド活用が拡大傾向にあるという大きな流れ自体は、中小企業にとっても無視できない変化です。

オンプレミスとクラウドの違いを非エンジニア向けに整理

「オンプレミス」とは、自社でサーバー機器を購入し、自社内に設置・運用する従来型の方式です。一方「クラウド」は、AWSやAzureのような事業者が保有・管理する大規模なサーバー設備を、インターネット経由で借りて利用する方式を指します。両者の違いを整理すると次のようになります。

  • 初期費用:オンプレミスはサーバー機器の購入費用がまとまって発生しますが、クラウドは基本的に月額・従量課金制で、初期費用を大きく抑えられます
  • 保守・運用の負担:オンプレミスは自社で機器の故障対応やセキュリティ更新を行う必要がありますが、クラウドは事業者側が基盤部分の保守を担うため、社内の負担が軽減されます
  • 拡張性:オンプレミスは容量を増やす際に新たな機器の購入・設置が必要ですが、クラウドは契約変更だけで容量を柔軟に増減できます

専門用語を使わずに言えば、オンプレミスは「自分の家を建てて管理する」イメージ、クラウドは「必要な分だけホテルの部屋を借りる」イメージに近いといえます。

「クラウド」にも種類がある:IaaS・PaaS・SaaSの違い

ひとくちに「クラウド」といっても、提供される内容によっていくつかの種類に分けられます。非エンジニアの方が最初に混乱しやすいポイントなので、簡単に整理しておきましょう。

  • SaaS(Software as a Service):完成したソフトウェアをそのままインターネット経由で使う形態。勤怠管理のKING OF TIMEや会計ソフトのfreeeなど、これまで本サイトで紹介してきたクラウドツールの多くはこのSaaSにあたります
  • PaaS(Platform as a Service):アプリケーションを開発・運用するための土台(プラットフォーム)を提供する形態。自社でシステムを開発する企業や、開発を委託しているIT企業が利用することが多い層です
  • IaaS(Infrastructure as a Service):サーバーやストレージ、ネットワークといった、最も基盤に近い部分を提供する形態。AWS・Azure・Google Cloudは、主にこのIaaS・PaaSの領域を担っています

多くの中小企業が最初に触れるのはSaaSですが、自社独自のシステムを構築したい場合や、複数のSaaSを組み合わせて高度なデータ活用を行いたい場合には、AWS・Azure・Google CloudのようなIaaS・PaaSの知識が必要になってきます。DXを段階的に進める中で、「まずはSaaSの活用から、必要に応じてIaaS・PaaSも視野に入れる」という捉え方をしておくとよいでしょう。

企業がクラウドを選ぶ理由

同じ総務省調査では、クラウドサービスを利用する理由(複数回答)についても調べています。上位から順に、「場所、機器を選ばずに利用できるから」50.2%、「資産、保守体制を社内に持つ必要がないから」42.6%、「安定運用、可用性が高くなるから」40.4%、「災害時のバックアップとして利用できるから」40.2%と続きます。「サービスの信頼性が高いから」32.3%、「拡張性が高いから」22.1%が続き、「既存システムよりコストが安いから」は19.1%と、実は他の理由と比べて低い順位にとどまっています。クラウドを利用した企業のうち88.2%が「効果があった」と回答しています。

なぜ「コスト削減のため」だけではないのか

この結果から分かるのは、多くの企業がクラウドを選ぶ理由は単純な「コスト削減」ではなく、「場所を選ばない柔軟な働き方」「保守負担の軽減」「災害時の事業継続性」といった、より広い経営上のメリットだということです。特に「災害時のバックアップとして利用できるから」という理由が前年から大きく増加している点は、自然災害の多い日本において、事業継続計画(BCP)の観点からクラウドが重視されていることを示しています。

クラウド移行にまだ踏み切れていない中小企業の理由

一方で、クラウド移行に踏み切れていない中小企業も存在します。中小企業庁「中小企業白書2021年版」では、クラウドサービスを利用しない理由として「必要がない」(45.7%)、「情報漏洩などセキュリティに不安がある」(31.8%)が上位に挙げられています(この数値は本記事執筆時点で一次資料の直接確認ができておらず、参考情報として扱ってください)。また、セキュリティ対策を進めるうえでの課題として、「社内の検討・推進体制が整わない」「対策を実施できる人材がいない」といった体制・人材面の不足も指摘されています。

「必要性を感じない」という回答が最も多いのは、裏を返せば、クラウド化によって解決できる自社の課題がまだ明確になっていない、ということかもしれません。セキュリティへの不安についても、クラウド事業者側が高度なセキュリティ対策を講じている場合が多く、正しい情報をもとに判断することが重要です。

中小企業にとってクラウド移行が重要な理由

人手不足が深刻化する中小企業にとって、サーバーの保守・運用にかかる人的負担をクラウド事業者に委ねられることは、限られた人員を本来の事業活動に集中させるうえで大きなメリットになります。また、DXを推進するうえで、データの活用や新しいITツールとの連携を進めるには、拡張性の高いクラウド基盤が土台として必要になる場面が増えています。クラウド移行は、単なるコスト削減の手段ではなく、DXを本格的に進めるための基盤づくりとして捉えることが重要です。

よくある質問

Q. クラウドに移行すると、セキュリティは本当に大丈夫ですか?

AWSやAzure、Google Cloudのような主要なクラウド事業者は、多くの場合、中小企業が自社だけで実現するのが難しい高度なセキュリティ対策を講じています。ただし、クラウド上のデータやアカウントの管理は利用する企業側の責任になるため、パスワード管理や多要素認証の設定など、利用者側の対策も引き続き重要です。

Q. 全部のシステムを一度にクラウドに移行する必要がありますか?

その必要はありません。多くの企業は、まずメールやファイル共有など一部の身近な業務からクラウド化を始め、効果を確認しながら対象範囲を広げています。いきなり基幹システムをすべて移行しようとせず、小さく始めることをおすすめします。

Q. AWS・Azure・Google Cloudは何が違うのですか?

3社ともクラウドの基本的な仕組みは共通していますが、料金体系や強みとする分野、既存システムとの連携のしやすさに違いがあります。それぞれの特徴の違いは、別記事「AWS・Azure・Google Cloudの違いとは?経営者目線で選び方を比較」で詳しく解説しています。

Q. すでにfreeeやKING OF TIMEのようなSaaSを使っています。それとは別にAWSなども必要ですか?

必ずしも必要ではありません。業務効率化が目的であれば、SaaSの活用だけで十分に効果を得られる企業も多くあります。AWS・Azure・Google CloudのようなIaaS・PaaSが必要になるのは、自社独自のシステムを開発したい場合や、複数のデータを組み合わせて高度な分析をしたい場合など、より踏み込んだ活用を目指す段階です。

Q. クラウド移行にはどれくらいの費用がかかりますか?

従量課金制のサービスが多いため、利用量に応じて費用は変動します。一般的には、オンプレミスでサーバーを新規購入するよりも初期費用を抑えられるケースが多いですが、利用規模が大きくなると月額費用も増えていきます。まずは小規模な利用から始めて、実際の費用感を確認しながら判断することをおすすめします。

参考にした主な調査・資料

まとめ

クラウドサービスの利用は年々拡大しており、その理由は単なるコスト削減ではなく、柔軟な働き方や保守負担の軽減、災害時の事業継続性といった幅広い経営上のメリットにあります。中小企業にとってクラウド移行は、人手不足への対応やDX推進の基盤づくりという観点からも、検討する価値のあるテーマです。