AWSで小さなサーバーを立てるとき、候補に挙がるのがt4g.microです。安価で、検証環境や小規模なWebサイトには十分な性能があります。

ただし、選ぶ前に知っておくべき点が2つあります。

  • CPUを常時フルには使えない(バースト可能インスタンスという仕組み)
  • CPUがARM系である(一般的なx86とは別のアーキテクチャ)

これを知らずに選ぶと、「思ったより遅い」「請求額が増えていた」「ソフトウェアが動かない」といった事態になります。

安いのには理由がある。その理由が自分の用途に合うかどうか。

AWS公式ドキュメントをもとに、仕様と注意点を整理します。

t4g.micro の基本スペック

まず数字を確認します。T4gファミリーの構成は次のとおりです。

インスタンス vCPU メモリ(GiB) ベースライン性能 クレジット/時
t4g.nano 2 0.5 5% 6
t4g.micro 2 1 10% 12
t4g.small 2 2 20% 24
t4g.medium 2 4 20% 24
t4g.large 2 8 30% 36

t4g.microは2 vCPU・メモリ1GiBです。ここで見慣れない項目が「ベースライン性能」と「クレジット」でしょう。これがT系インスタンスの本質です。

「ベースライン10%」が意味すること

T系はバースト可能インスタンスと呼ばれます。CPUを常時100%使える前提ではなく、普段は控えめに、必要なときだけ全力を出す設計です。

その配分を管理するのがCPUクレジットです。AWSの定義はこうなっています。

1 CPUクレジット = 1 vCPU × 使用率100% × 1分

t4g.microは1時間に12クレジットを獲得します。一方で2 vCPUを持つため、フル稼働すると1時間に120クレジット(2 vCPU × 60分)を消費します。

獲得と消費が釣り合う地点がベースラインです。計算式も公式に示されています。

ベースライン使用率 = (獲得クレジット数 ÷ vCPU数) ÷ 60分
                  = (12 ÷ 2) ÷ 60
                  = 10%

つまりt4g.microで継続的に使えるCPUは全体の10%です。これを超えると蓄えたクレジットを取り崩し、下回るとクレジットが貯まります。

蓄積には上限があり、公式によれば24時間で獲得できる量が限度です。t4g.microなら24時間 × 12 = 288クレジットで、それ以上は獲得しても破棄されます。

クレジットはどれくらいで尽きるのか

上限の288クレジットが、実際にどの程度もつのかを計算しておくと判断しやすくなります。クレジットが満タンの状態から、一定のCPU使用率で動かし続けた場合は次のようになります。

CPU使用率 1時間あたりの増減 枯渇までの時間
5% +6 枯渇しない(貯まる)
10% ±0 均衡(ベースライン)
20% -12 約24時間
30% -24 約12時間
50% -48 約6時間
100% -108 約2.7時間

CPU使用率50%で動かし続けると、貯金を使い切るまでおよそ6時間です。日中だけ負荷がかかり夜間は空いている、という使い方なら問題ありませんが、常時30%を超える処理には向きません。

【最重要】t4g は既定で「無制限モード」で起動する

ここが最も注意すべき点です。クレジットを使い切ったらどうなるのか——答えは設定によって変わります。

モード クレジット枯渇時
standard ベースライン性能まで速度が落ちる
unlimited 性能を維持し、追加料金が発生する

そしてAWSのドキュメントには、こう明記されています。

T4g、T3a、T3インスタンスは既定でunlimitedとして起動する(既定を変更しない限り)。24時間の平均CPU使用率がベースラインを超えた場合、超過クレジットに対して料金が発生する

何も設定しなければunlimitedモードです。負荷が高い状態が続いても止まりませんが、その分は課金されます。追加料金はT4gページに1 vCPU時間あたり0.04ドルと記載されています。

「安いインスタンスにしたのに、請求額が想定より多い」——多くはこれが原因です。

逆に言えば、性能が落ちないぶん障害には気づきにくいということでもあります。クラウドのコスト管理では、この種の「静かに増える課金」を検知する仕組みが重要になります。

無料利用枠でも課金される場合がある

さらに見落としやすい注意書きがあります。

AWS無料利用枠でt2.microやt3.microを起動し、unlimitedモードで使用した場合、24時間の移動平均使用率がベースラインを超えると料金が発生する可能性がある

「無料枠だから何をしても無料」ではありません。CPU使用率が高い状態が続けば、超過分は課金対象になります。

なお、24時間の移動平均がベースライン以下に収まっていれば、一時的な負荷の急上昇は通常の時間単価に含まれます。短時間のピークを気にする必要はありません。

t3.micro との違いはCPUのアーキテクチャ

もう一つの特徴が、搭載されているCPUです。

t4g.micro t3.micro
CPU AWS Graviton2(ARM) Intel/AMD(x86)
メモリ 1 GiB 1 GiB
価格性能 T4gはT3比で最大40%優れる(AWS公表値)

Graviton2はAWSが独自に設計したプロセッサで、公式によれば64ビットArm Neoverseコアをベースにしています。同等性能をより低コストで提供できるため、価格性能に差が出ます。

ただし、アーキテクチャが違うということは動くソフトウェアが違うということです。ここが実務上の分かれ目になります。

ARM環境で確認すべきこと

x86向けにビルドされたプログラムは、そのままでは動きません。導入前に次を確認してください。

  • Dockerイメージがarm64に対応しているか。主要な公式イメージは対応済みですが、社内で作った独自イメージは作り直しが必要な場合があります
  • 配布形式がバイナリのソフトウェア。ARM版が提供されているかを確認します
  • 商用製品・エージェント類。監視ツールやセキュリティ製品はARM未対応のものが残っています

一方、多くの言語処理系(Node.js、Python、Java、Go、PHPなど)やミドルウェア(Nginx、PostgreSQL、MySQLなど)はARMに対応済みです。一般的なWebアプリケーションであれば、問題になることは多くありません。

無料トライアルの対象は t4g.micro ではない

T4gには無料トライアルがありますが、対象インスタンスを誤解しやすいため注意が必要です。AWSのT4gページにはこう書かれています。

t4g.smallインスタンスを2026年12月31日まで、月750時間まで無料で試せる

対象はt4g.smallであり、t4g.microではありません。t4g.smallはメモリ2GiB・ベースライン20%と、microより上位の構成です。

つまりこの期間中は、より高性能なt4g.smallのほうが安く使える可能性があります。t4g.microを選ぼうとしている場合は、smallと比較してから決めるのが合理的です。

向いている用途・向かない用途

向いている 向いていない
アクセスの少ない社内サイト 常時CPU負荷が高い処理
開発・検証環境 動画変換・機械学習などの計算処理
小規模なAPIサーバー 大量メモリを要する用途
踏み台サーバー ARM未対応ソフトが必須の環境

判断基準は「CPUを継続的に10%以上使うか」です。使うのであれば、T系ではなくM系など常時性能が保証されたタイプを検討したほうが、結果的に安く済みます。

よくある質問

Q. メモリ1GiBで足りますか?

静的サイトや軽量なAPIであれば動作します。ただしデータベースを同居させる構成では不足しがちです。スワップ領域の設定や、上位インスタンスの検討が必要になります。

Q. CPUクレジットの残量は確認できますか?

CloudWatchでCPUCreditBalanceという項目を監視できます。残量が減り続けている場合は、ベースラインを超えて使い続けている状態です。導入時に必ず監視を設定してください。

Q. standardモードに変更できますか?

可能です。追加課金を避けたい検証環境などでは、standardモードにしておくと予期しない請求を防げます。ただしクレジット枯渇時は性能が落ちます。

Q. ARMかどうかを後から変更できますか?

インスタンスタイプの変更で対応できますが、ARMとx86の間では単純な変更ができません。OSやアプリケーションを入れ直す必要があるため、最初の選択が重要です。

Q. t4g.nanoとの違いは何ですか?

メモリが0.5GiBと半分で、ベースラインも5%に下がります。用途はかなり限定され、常駐プロセスの少ない軽量な処理向けです。

参考にした主な調査・資料

まとめ

t4g.microは条件が合えば有力な選択肢ですが、前提の理解が欠かせません。

  • スペックは2 vCPU・メモリ1GiB、ベースライン性能は10%
  • 継続的に使えるCPUは全体の10%。それ以上はクレジットを消費する
  • 既定はunlimitedモード。性能は落ちない代わりに超過分が課金される
  • 追加料金は1 vCPU時間あたり0.04ドル
  • 無料利用枠でも超過すれば課金される可能性がある
  • CPUはARM系のGraviton2。x86向けソフトはそのままでは動かない
  • 無料トライアルの対象はt4g.smallでありmicroではない(2026年12月31日まで)

導入するなら、CPUCreditBalanceの監視設定までをセットで行ってください。性能低下も追加課金も、この値の推移に先に現れます。