中小企業のDXを考えるうえでも、大企業の取り組みから学べることは少なくありません。この記事では、経済産業省・東京証券取引所が選定する「DX銘柄」制度と、2026年度に選ばれた企業の具体的な取り組みを紹介しながら、中小企業が参考にできるポイントを整理します。

「DX銘柄」とは何か

「DX銘柄」は、経済産業省・東京証券取引所・IPA(情報処理推進機構)が共同で選定する制度で、東証プライム・スタンダード・グロース市場に上場する企業が対象です。選定基準は「単なる情報システムの導入やデータ活用にとどまらず、AI等のデジタル技術を前提としたビジネスモデル・経営変革に挑戦し続けている企業」とされており、投資家に向けて優れたDX企業を可視化する狙いがあります。

DX銘柄2026の概要

2026年4月10日に発表された「DX銘柄2026」では、30社が選定されました。内訳は、最高evaluationの「DXグランプリ」が3社(ブリヂストン、ミスミグループ本社、三井住友フィナンシャルグループ)、「DX注目企業」が17社、複数年にわたり高い評価を得た企業を対象とする「DXプラチナ企業2026-2028」が2社です。2026年度の選定では、AI関連法の成立を踏まえ「AIトランスフォーメーション」への取り組みが重視して評価された点が特徴です。

選定区分の違い

DX銘柄の評価には段階があります。「DXグランプリ」は当該年度で最も高い評価を得た企業に贈られる最高位の評価で、2026年度は前述の3社が選ばれました。「DX注目企業」は優れた取り組みを行っている企業として選ばれる区分で17社が該当し、「DXプラチナ企業」は複数年度にわたって継続的に高い評価を得ている企業に贈られる区分で、2026年度は2026〜2028年の3年間の評価として2社が選ばれています(前回2025〜2027年の評価ではLIXILが選ばれています)。単年の評価だけでなく、継続性も重視されている点が特徴です。

グランプリ企業の取り組み

ミスミグループ本社(製造業向けBtoBプラットフォーム)

3DCADデータをAIが自動認識して部品を無人製造する仕組みを構築し、部品調達サービス「meviy」では調達リードタイムを92%削減、累計1,043万時間の創出につなげています。社内では90以上の職種でAIエージェントを導入するなど、全社的にAI活用を広げている点が評価されました。

ブリヂストン(タイヤ製造)

DX銘柄に7年連続で選定されている常連企業です。デジタル人財を2024年末の1,750人から2026年末には2,000人規模へ拡大する計画を掲げ、「リアルとデジタルの融合」「組織・人財育成」「データ活用」という3つの軸をグローバル規模で推進しています。

三井住友フィナンシャルグループ(銀行)

3年連続でDX銘柄に選定されています。生成AIに500億円を超える投資枠を新設し、全社共通のAI基盤を整備するとともに、「Olive」「Trunk」といった既存サービスをデジタル前提で再定義する取り組みを進めています。

大企業DXの課題(経済産業省の分析より)

経済産業省が2025年5月に公表した「デジタルトランスフォーメーション調査2025の分析」によると、DX銘柄選定企業と未選定企業の間には、「企業間連携」「DX推進・新たな挑戦を支援する仕組み」「データ連携・データガバナンス」といった項目で差が見られるとされています。興味深いのは、DX銘柄に選定されているような先進企業の中でも、「DX推進部署の責任者」「DX推進を支える人材」の確保は依然として課題として残っている、という分析です。予算規模が大きく、知名度もある大企業でさえ人材確保に苦労している実態は、中小企業にとって「人材不足は自社だけの問題ではない」という一種の安心材料にもなるかもしれません。

「2025年の崖」と大企業の関係

大企業のDXが停滞する背景としてしばしば指摘されるのが、老朽化・複雑化したレガシーシステムの存在です。経済産業省の「DXレポート」では、こうしたシステムを放置した場合、新サービスの開発や海外のデジタル企業との競争において足かせとなり、最大で年間12兆円規模の経済損失につながりかねないという、いわゆる「2025年の崖」が指摘されています。長い歴史を持つ大企業ほど、こうした古いシステムを多く抱えている傾向があり、DX銘柄に選ばれるような先進企業も、この課題と無縁ではありません。この点についてより詳しくは、別記事「「2025年の崖」は結局どうなった?現在地を検証」もあわせてご覧ください。

大企業の事例から中小企業が学べる点

経済産業省自身、「DX銘柄の選定対象は上場企業(大企業)が多く、中堅・中小企業等が直接参考にしにくい」という認識を示しており、中小企業向けには別途「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き」を用意しています。つまり、大企業の事例をそのまま自社に当てはめようとするのは現実的ではありません。

それでも、共通して参考にできる考え方はあります。ブリヂストンやミスミグループのように、経営トップが明確にDXの方向性を示し、継続的に投資を続けている点は、規模を問わず重要な要素です。一方で、大企業が「全社一斉」の変革を目指せる規模・予算を持つのに対し、中小企業は「特定の業務課題からスモールスタートし、データで検証しながら広げる」という進め方の方が現実的だと専門家は指摘しています。この考え方は、本サイトの他記事でも繰り返し紹介してきた進め方と共通しています。中小企業向けの優良事例としては、経済産業省が実施する「DXセレクション」(DX銘柄の中小企業版に相当する制度)も参考になります。

よくある質問

Q. 中小企業もDX銘柄を目指すことはできますか?

DX銘柄は東証上場企業が対象のため、非上場の中小企業は対象外です。中小企業の場合は、同じく経済産業省が実施する「DXセレクション」が、事実上の中小企業版の優良事例選定制度にあたります。

Q. 大企業の取り組みは予算規模が違いすぎて参考にならないのでは?

具体的な投資額やシステム規模はそのまま参考にはなりませんが、「経営トップが継続的に関与する」「明確な方向性を示す」といった姿勢の部分は、規模を問わず応用できる考え方です。数字の大きさに気を取られず、取り組みの進め方の部分に注目するとよいでしょう。

Q. 「DX認定制度」と「DX銘柄」は何が違いますか?

DX認定制度は、企業規模を問わず(大企業・中小企業・個人事業主すべて)、デジタルガバナンス・コードの基本的な取り組みを行っていることを国が認定する制度です。一方DX銘柄は、上場企業の中から特に優れた取り組みを行う企業を選定する、より対象を絞った制度です。中小企業でも、まずはDX認定の取得を一つの目標にすることは可能です。

Q. なぜ大企業の中でも人材確保が課題になるのですか?

DX推進人材は業界全体で需要が高く、大企業であっても採用競争が激しい状況にあります。また、単にIT技術に詳しいだけでなく、経営視点とデジタル技術の両方を理解し、部門横断で調整できる人材は、企業規模を問わず希少です。経済産業省の分析でも、DX銘柄に選ばれるような先進企業内部でさえ、この点は継続的な課題として指摘されています。

参考にした主な調査・資料

まとめ

DX銘柄2026に選ばれた企業の取り組みは、規模もスピード感も中小企業とは大きく異なりますが、「経営トップの継続的な関与」「明確な方向性の提示」という姿勢は参考にできます。数字の大きさに惑わされず、自社の規模に合った「特定の課題からのスモールスタート」を実践することが、中小企業にとって現実的な道筋です。