「電子帳簿保存法」「インボイス制度」という言葉は知っていても、具体的に何がいつまでに必要なのか、正確に把握できている中小企業ばかりではありません。この記事では、両制度の要点と、対応をどうDX・業務効率化につなげるかを解説します。

電子帳簿保存法とは何が義務化されたのか

2024年1月1日以降、メール添付の請求書やクラウドサービス経由の領収書など、電子的にやり取りした取引データ(電子取引データ)は、紙に印刷して保存することが認められなくなり、電子データのまま保存することが義務化されました。対象はほぼすべての法人・個人事業主です。

保存にあたっては、「真実性の確保」(タイムスタンプの付与や、訂正・削除履歴が残るシステムの利用等による改ざん防止)と「可視性の確保」(検索機能の確保、ディスプレイやマニュアルの備え付け)という2つの要件を満たす必要があります。ただし、税務署長が「相当の理由がある」と認め、税務調査等の際にデータのダウンロードや出力書面の提示に応じられる場合は、要件どおりでなくてもデータを保存しておくだけで済む猶予措置が設けられています。この猶予措置には現時点で期限が区切られていません。

対応を怠った場合、保存要件違反そのものへの直接的な罰則はありませんが、税務調査で改ざん等が発覚すれば重加算税が通常より重く課される可能性があるほか、青色申告の承認取消しの判断要素になったり、会社法上の帳簿保存義務違反として100万円以下の過料の対象になったりするリスクがあります。

インボイス制度の基本と経過措置

2023年10月1日に始まった「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」では、仕入税額控除を受けるために、税務署長に登録した「適格請求書発行事業者」が発行する請求書(インボイス)の保存が必要になりました。免税事業者がインボイス発行事業者に登録する場合の経過措置や、免税事業者からの仕入れに関する仕入税額控除の経過措置(2023年10月〜2026年9月30日は80%控除、2026年10月1日〜2029年9月30日は50%控除、2029年10月以降は控除なし)が設けられており、2026年10月からは控除割合が80%から50%へ縮小するタイミングにあたる点は特に注意が必要です。

また、免税事業者から課税事業者に転換した小規模事業者の納税負担を軽くする「2割特例」は、2026年9月30日を含む課税期間まで適用可能とされており、その後は個人事業主等を対象とする新たな軽減措置の導入が議論されていますが、本記事執筆時点で正式な制度化は確認できていません。このほか、前々年の課税売上高が1億円以下等の事業者を対象に、1万円未満の取引であればインボイスの保存を省略できる「少額特例」も設けられており、こちらは2029年9月30日まで適用される予定です。

なお、インボイスに記載する消費税額そのものにも計算方法の規定があり、請求書ごと・税率ごとに1回だけ端数処理を行う必要があります。システム改修の際に見落とされやすい点のため、別記事「金額計算で1円ずれる原因」もあわせてご確認ください。

中小企業の対応状況

日本商工会議所・東京商工会議所が2025年6〜7月に実施した「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」(会員企業2,710者回答)によると、制度導入前に免税事業者だった事業者のインボイス登録率は、BtoB中心の事業者で78.6%である一方、BtoC中心の事業者では24.6%にとどまっています。インボイス発行事業者の45.8%が「コストが増加した」、73.4%が「事務負担が増加した」と回答しており、コスト増の要因は「既存システムの改修」(39.7%)、事務負担増の要因は「仕入先の登録状況確認・管理」(74.8%)が最も多くなっています。

特に注目したいのは、売上高1千万円以下の小規模事業者の実態です。79.4%が経理事務を1人で担当し、76.4%に経理の専任者がおらず、48.3%が経理関連システムを一切導入していません。また56.7%が経理業務を全くペーパーレス化しておらず、86.9%がAI-OCR等のツールをインボイス対応に使っていないという結果が出ています。規模が小さいほど、制度対応のためのデジタル化が遅れている傾向がうかがえます。

対応に必要なITツール

電子帳簿保存法・インボイス制度の両方に対応するため、中小企業では次のようなツールの導入が一般的に検討されています。

  • 電帳法・インボイス対応の会計ソフト:freee会計、マネーフォワード クラウド会計、弥生会計オンラインなど
  • 経費精算・請求書受領システム:楽楽精算、TOKIUM、Bill Oneなど、AI-OCRでの読み取りや電子保存機能を備えたサービス。具体的な比較は別記事「中小企業向け勤怠管理・経費精算SaaS比較」もご覧ください
  • 検索要件を満たすクラウドストレージ:タイムスタンプ機能や改ざん防止機能を備えたデータ保管環境

法令対応をDXのきっかけにする

前述の調査結果が示すとおり、規模の小さい事業者ほどシステム未導入・ペーパーレス化未実施の割合が高くなっています。裏を返せば、電子帳簿保存法・インボイス制度への対応を、経理業務全体のデジタル化に着手するきっかけとして活用できる余地が大きいということでもあります。制度対応のためだけに最低限のツールを導入するのではなく、この機会に経理業務全体の効率化まで視野に入れて検討することをおすすめします。

ツール導入の費用面では、別記事「「IT導入補助金」→「デジタル化・AI導入補助金」への名称変更まとめ」で紹介した「インボイス枠」が活用できる場合があります。インボイス制度に対応した会計・受発注・決済ソフトや、対応するハードウェア(PC・タブレット・レジ等)の購入費用が対象になることがあるため、導入を検討する際は確認してみてください。

今すぐ確認すべき3つのポイント

  1. 自社の電子取引データが正しく保存されているか確認する:メールやクラウドサービスでやり取りした請求書等を、紙に印刷して満足していないか見直す
  2. 2026年10月からの経過措置の変更を把握する:免税事業者からの仕入れに関する仕入税額控除が80%から50%に縮小するタイミングが近づいていることを認識しておく
  3. ツール導入に補助金を活用できないか検討する:インボイス対応のためのシステム導入費用について、補助金の対象になるか確認する

よくある質問

Q. 猶予措置があるなら、電子帳簿保存法への対応は急がなくてもよいですか?

猶予措置はあくまで「相当の理由」が認められ、税務調査等でデータの提示に応じられることが条件です。恒久的に対応を先延ばしにできる制度ではないため、早めに正式な保存要件を満たす体制を整えることをおすすめします。

Q. 免税事業者のままでいることはできますか?

制度上は可能ですが、取引先が仕入税額控除を必要とする課税事業者の場合、インボイスを発行できないことが取引条件に影響する可能性があります。前述の調査でもBtoB中心の事業者ほど登録率が高いのは、この点が背景にあると考えられます。

Q. 経理担当者が1人しかいない会社でも対応できますか?

調査結果が示すとおり、経理担当者が1人の小規模事業者は少なくありません。すべてを一度に完璧にしようとせず、まずは会計ソフトの導入など、負担軽減につながる部分から着手することをおすすめします。

Q. 「少額特例」とはどのような制度ですか?

前々年の課税売上高が1億円以下等の条件を満たす事業者を対象に、1万円未満の少額な取引についてはインボイスの保存がなくても仕入税額控除を受けられる特例です。2029年9月30日まで適用される予定で、日常的な少額の経費精算にかかる事務負担を軽減する効果があります。

参考にした主な調査・資料

まとめ

電子帳簿保存法とインボイス制度は、いずれも猶予措置や経過措置があるとはいえ、対応の先延ばしにはリスクが伴います。特に2026年10月からはインボイスの経過措置が縮小するタイミングでもあり、この機会に法令対応とあわせて経理業務全体のデジタル化を検討することをおすすめします。